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最終話 それから
こんな時間だけど、早めに連絡をしておきたいと正悟達はそれぞれの家に連絡を取る。
悠希もまた、両親にビデオ通話を繋いだ。
『悠希、元気にしてる?』
「うん、母さん達も変わりなさそうだね」
世間話もそこそこに「父さん、母さん、実は」と事情を話そうとすれば、意外な答えが返ってきた。
『ああ、実はもう知っているんだ』
「へっ」
『夕方にね、国立第二性研究所から連絡があってね……国の番研究に選ばれたんだろう?』
「え、あ、えっと……うん、そうなんだ」
『大変ねぇ、今後の生活保障はあるとは言っても、3人のアルファと過ごすんでしょ?私たちにはよく分からないけど、オメガはそんなことをして危なくないの?』
どうやらベータである悠希の家族には、あくまで悠希は政府の研究に参加するオメガに選ばれたという話になっているらしい。
適当に話を合わせ『とにかく頑張って、アルファの皆さんにも宜しくね』と通話を終えれば「そういう話になっているんだねぇ」と横から葵が抱きついてきた。
「みんなのところも?」
「いや、俺たち3人のところには研究所の所長自ら真実を説明に来たそうだ。……俺たち3人の愛に国の存亡がかかっているとな」
「まったく、大げさなのよね!ああ、書類上は悠希はあたしたち3人と結婚したことになるそうだから」
「え」
「そうじゃないと、悠希もボクたちもマッチング対象になるから」
(そうか、もう僕に22歳の期限はないんだ)
この半年間のドタバタのせいですっかり忘れていた、オメガの枷を思い出し……そこから解き放たれた実感がじわじわと湧いてくる。
この国に生まれたオメガに定められた、22歳までの自由。
愛する人と結ばれたければ、22歳になるまでに番を見つけなければならない。
どんなに手厚く保護され優遇を受けていたとしても、それはあくまで番を作り子を産み育てるためであり、社会に出て活躍するためではないと暗に強いられる世界で、オメガ達は期限までに恋をし、理解ある番を「捕まえて」少しでも社会との繋がりを持ち続けようと足掻く。
確かに表面上の差別はなくとも、オメガに与えられる自由は努力と運を必要とする。
そして悠希は最初から諦めていた自由を幸運にも掴み取ったのだ。
(僕が、愛する人と共に暮らせるんだ)
なんだろう、さっきから身体がふわふわして、熱くて堪らない。
3人と番になった喜びで、愛する人と結ばれる幸運を享受できる幸せで、舞い上がっているのだろうか。
気のせいか胎まで疼いて……ああ、番達の香りに惹かれてしまう。
「……ちょ、悠希くん?どうしたの!?」
「んふ……葵ちゃん……いい匂いぃ…………」
「わぁっ!待って待って悠希くん、そんなまだお風呂入ってないのに咥えないでぇっ!」
「ちょっと悠希何してんの!?」
「なんだ、まさかまたヒートか!!?」
群れた匂いと汗のしょっぱさすら、美味しくて、満たされて。
はやく、はやくここを大きくして、硬くして、寂しい孔を埋めてと言わんばかりに熱心に葵にむしゃぶりつく悠希に3人は慌てふためく。
すわ、ヒート再びかと身構えたその時、正悟のスマホの着信音が鳴った。
ディスプレイに表示されているのは、柳の名前だ。
ちょうどいい、この状況も相談しようとスピーカーモードにして通話ボタンをタップする。
『正悟くん、斉昭は良いって言ったんだけど伝えておいた方がいいと思って』
「あ、俺も聞きたいことが」
『うん、きっと同じ事だと思う。悠希君の様子がおかしいんだろう?』
「え」
『……その、さ。誘因物質生成阻害用の電気針なんだけど、あれオメガ特有の性感帯を24時間刺激し続けるんだよね』
「あ」
「……まさか」
『そのまさかなんだ、すまない。斉昭曰く、刺激に慣れて日常生活が送れるようになるには2週間くらいかかるって。ただ慣れても刺激され続けているのは変わらなくて』
「……つまり」
「悠希は」
「ずっとえっちなまま……?」
『…………3人で相手すれば何とかなるし、何とかならなきゃ新たなアルファを捕まえるだろうって、斉昭が』
「あんのクソ眼鏡!!人の番だと思って何してくれてんのよ!!」
国というのは大概ピントがずれている気がする。
大体、むやみにアルファを誘わないようにするための処置だったのではないのか、これは。
あんたのクソ番、一発ぶん殴っておいてよ!と柳を怒鳴りつけ通話を終了した3人は「お願い、これっ挿れてぇ……」とすっかり臨戦態勢になった葵の屹立に頬ずりする悠希を見つめる。
「……一華、やるぞ」
「分かってるわよ。こうなったら徹底的に気持ちよくして、他のアルファなんて要りませんってなるまで泣かせてあげるわ……!」
「はぁっ、もう限界……!これはうん、もっと過激な世界を見せてあげないとねぇ!」
うっとり目を潤ませておねだりする可愛い番。
お前の運命は、俺たち3人だけで十分だ。
心の中でそう決意しつつ、正悟はひょいと悠希を抱き上げ「悠希、まずは洗浄だ」と一華と葵とともにバスルームに消えていくのだった。
――明くる日、大学に研究所からのレターを添付した4人の2週間にわたる公休届けが送信されたのは言うまでも無い。
…………
「え、あの人チョーカーが白いんだけど」
「ああ、浅香先輩?彼、政府の研究対象に選ばれた特殊なオメガなんだって」
「へぇ……いいなぁ白いチョーカー、何だか清楚で純潔って感じで」
そうして、また春がやってくる。
新たにキャンパスにやってきた学生達が目にするのは、4人の先輩。
大柄で筋肉質、顔が整った青年と、豊かな胸が目に眩しい美女。
小袖に身を包んだ背の高い落ち着いた雰囲気の女性……は、女性にしては随分肩幅が広いような気がしなくもない。
そして彼らに囲まれて歩く、小柄で儚い雰囲気の、ともすれば少女と間違えそうな外見の青年。
その首には純白のチョーカーが巻かれ、耳にはアクアマリンのピアスが光っている。
ほんのり色づいた頬と唇が、何とも艶かしい。
思わず見とれていれば「おい、あんまりじろじろ見るなよ」と先輩が新入生達を窘めた。
「下手に気があると思われたら大変だぞ?あのアルファ達、浅香のボディーガード状態だから」
「マジですか!?てか3人もアルファを引き連れてるなんて凄いですね」
「ああ、あいつらも研究対象で4人でルームシェアしてるんだってさ」
「へえ、何の研究してるんだろう」
「……余計な詮索はするなよ、国からしょっ引かれるから」
「げ」
学内の混乱を防止するため、大学は早々に国立研究所からの通達を全学に掲示した。
とはいえ『傾国のオメガ』の話は機密扱いだから、表向きは研究所の先端技術開発に関する被験者として悠希達が指定され、オメガである悠希は被験者であることを表す白のチョーカーを装着していることになっている。
「4人に対し危害を加えた場合、国家反逆罪となる」との一文のお陰で、最近ではオメガ達から悪意の眼差しを向けられることもめっきり減った。
どうしても好奇の視線には晒されるものの、悠希は概ね快適な学生生活を満喫している。
「にしてもさ、やっぱり目立ちすぎじゃない?そのピアス」
「何を言っている、お前達に比べればささやかな証だろうが」
「えー、でもボクたちのは外から見えないもーん♡」
ね?とちょっと意地悪そうに微笑む葵に「……葵ちゃん、これ、辛いよう」と悠希は涙目になりながら小声で必死に訴える。
その瞳には明らかな欲情が浮かんでいた。
「お願い、もう出させて……頭おかしくなっちゃうよ……」
「だぁめ♡まだ3週間だよ?あと10日、頑張ろうね?」
「ううぅ……出したい……」
頭を渇望に焼かれつつも、もじもじしながら必死に平静を装い歩く悠希。
その服の下には、一華と葵の『証』が刻み込まれていた。
…………
番のチョーカーは、アルファにとっては支配欲と所有欲の表れ、自分のものであるという証であり、その本能を満たすためには欠かせないものだ。
だからアルファは番に贈るチョーカーには並々ならぬ情熱を注ぐし、装着も(取り外しはオメガ以外には出来ない)自ら行うこだわりを見せることが多い。
けれども、悠希のチョーカーは政府の支給品だ。
残念ながらアルファの所有欲をこれっぽっちも満たすことが出来ない。
しかも『傾国のオメガ』である悠希には、番の証拠であるうなじの噛み痕すら残らない。
この愛しいオメガがアルファである自分のものであるという証が、何一つ無いのだ。
だから3人は、番となって2ヶ月も経たないうちに、せめてもの代わりとして悠希に証を着けさせて欲しいと頼んだのである。
「我が儘だとは思うんだが、どうしても本能が満たされないんだ」
「あたし達3人、それぞれの証を刻んで貰いたいのよ。他のアルファの証もあるのは気にはなるけど、それでも何もないよりはずっとマシ」
「ね、目立たないようにはするから!だめかな……?」
そんな風にねだられれば、悠希だって悪い気はしない。
そんなことで彼らの心が満たされるならお安いご用、とばかりに悠希は快諾したのだが……せめて詳細くらいは聞くべきだった、安請け合いは良くないとちょっとだけ後悔する羽目になる。
「ふぅっ、ねぇお願い、もう我慢できない……っ!」
「葵、いくら何でもこれはだめだろう。折角電気針にも慣れて外でねだられる事は減ったというのに」
「やだよ、何だっていいって言ったのは悠希くんなんだし!それにボクの番ならもっとオンナノコらしくなってもらわないと、ね!」
家に着くなり悠希は服を脱ぎ捨て、潤んだ瞳で見上げながら3人に縋り付く。
耳たぶを貫くアクアマリンのピアスは、正悟とお揃いのものだ。
その下腹部には、蝶をかたどった……所謂淫紋のような紅色の入れ墨が彫られている。
一華の父が構える穴吹組お抱えの彫り師により刻まれた紋は、悠希の白い肌に良く映えていた。
「まったく、まさか消えない痕を刻むだなんて」と正悟が嘆息すれば「だからいいんじゃない」と一華は悪びれもせず嬉しそうに淫紋に口付けを落とすのだ。
……ああ、そんなことをされたら、ますますその奥に熱が溜まってしまう。
「これのお陰で、組でも一目置かれるようになったしね。墨を入れるってのは仲間意識の醸成にも役に立つのよ、うちの界隈じゃ」
「まぁ、下着にも隠れるから良いと言えばいいが……」
「それより葵の方がよっぽど鬼畜じゃないの」
「ひどいなぁいっちゃん、ボクは悠希くんを可愛がっているだけだよ?」
その淫紋の更に下。
申し訳程度とは言えちゃんと大きくなり、役に立たないとはいえ子種も一応吐き出せるはずの悠希のペニスは、しかし銀色に光る円形のプレートにより体内にきっちり押し込められ、影も形も見当たらない。
プレートの中心に開いた穴からは透明な蜜がたらたらと流れ落ち、この奥に隠された欲望がずっしり重くなった陰嚢の中身を全部吐き出したいと涙を零し続けているようだった。
「性欲が薄いオメガでも、流石におちんちんを完全に封じされたら辛くなるんだねぇ」
「当たり前でしょ!射精はおろか自慰すら完全禁止だなんて、葵あんた鬼畜にもほどがあるわよ!!」
「ふふっ、こうやって一生懸命解放を願って縋る悠希くんが可愛くてさぁ……あ、ちゃんと1ヶ月に一度はご褒美を上げるから大丈夫だよ!」
「そこで射精させてやるとは言わないんだな……」
あきれ顔の正悟と一華だが、けれど本来オメガが感じることはほとんど無い射精欲に振り回され、せめてこの辛さを紛らわしたいと胎の快楽を求めて3人に必死に縋る悠希の姿は悪くない。
悪くないどころか、眼福である。
だから葵がフラット貞操具を悠希に装着することに関しても、一応文句を言うが拒絶はしないのだ。
(夜くらいは振り回すのも、悪くない)
「ほら、悠希。俺たちのが欲しければどうするんだ?」
「うあぁ……正悟君おねがいっ、乳首をいっぱい触って気持ちよくしてぇ!」
「ああ、今日も真っ赤に腫れてトロトロになるまで触ってやろう」
「一華さん、でっかいチンコしゃぶらせてくださいぃ……」
「でっかいは余計よ!ったく、悠希はいやしんぼうなんだから……ほら、たっぷり舐めなさいな」
「んむぅ……んふ……」
一華のすっかり元気になった屹立を頬張り、正悟が胸から、葵が股間から与えてくる快楽に溺れる。
今日もまた、3人が欲しいと泣き叫んで懇願するまで……彼らの支配欲を満たすまで悠希は執拗に愛撫され、奉仕を強いられるのだろう。
(夜くらいは、僕を振り回してご満悦な3人を見るのも悪くないよね)
『傾国のオメガ』特有の、決して失うことのない理性で3人の様子を堪能しつつ、今日も悠希は幸せなひとときに身を委ねるのだった。
こうして番になれない鈍感なオメガは、けれども3つの運命をその手に掴み取った。
純白のチョーカーに誓った永久への願いを胸に歩く彼らの前途が、どうか洋々足らんことを。
「悠希は、生涯自分達3人だけの『運命』だ」
――そのオメガ、鈍感につき 完――
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