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第46話 元カノへの感情/憂太の過去(2)

「夏休みの間にさ、麻生さんが彼氏と別れたから付き合わない?って言ってきて…」 「え?彼氏は?別れたの?」 憂太の腕の中で話を聞いていたら、あれだけ流れていた涙がいつの間にか止まっている。 「うん。本当はね、彼氏と喧嘩が絶えなくて、夏休みに入ってから、距離を置こうってなったんだって」 「完全に別れてないじゃん」 「でもそれは後から知った話でさ。はじめ僕には別れたからって言ってたんだよね」 「なんだよ、そいつ!憂太のこと好きになったんなら、ちゃんと別れてから告白しろよ」 憂太のこれまでの厚意がおもちゃのように扱われているようで気分が悪い。 会ったことはないが、すでに俺は麻生さんのことが嫌いだ。 俺が怒っているのを見て、憂太はありがとうと言ってから話を続けた。 「別れてすぐに他の誰かのこと好きになれるのかなと思って、最初は断ってたんだけど…。何回か付き合いたいって言われて。僕も2人が距離を置く原因のひとつになったようだったし、断る度に泣かせてしまっていたし、だんだん申し訳なくなって告白を受け入れたんだよね」 2人の間を割くなんて何をしたのだろうと思ったのに、口にしていたのは別の言葉だった。 「ゆ…うたはさ、麻生さんのこと好き…だったの?」 「…ううん。好きになれなかったかな」 憂太の言葉を聞いて胸を撫で下ろした。 「…どれくらい付き合ってたの。卒業するまでとか?」 憂太が俺の肩にトンっと頭を乗せて、首を振る。 「2週間ぐらい。付き合ってるっていっても電話で2〜3回話をしたり、パンケーキを一緒に食べに行ったりしただけだよ。手を繋いでもないし、キスもしてない。…なんか麻生さんに触れたいって全く思えなくて。僕から別れようって言って別れた」 そう言って、さっきよりもほんの少しぎゅうっと俺を抱きしめる力が強くなった。 「(じゃあ、こうやって甘えたみたいに触れてくるのは俺にだけなのか…)」 必死に過去を伝えようとしている憂太を見ていると、さっきまでの怒りは消えかけていた。

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