48 / 82
第48話 捻じ曲げられる話/憂太の過去(4)
憂太の思い詰めた様子は見ているだけで心がえぐられる。
「えっと…夏休みが終わって初めての学校だったから、何でクラスのみんながよそよそしいのか全然分かんなくて…」
大きく息を吸い込んだり、吐いたりしながら憂太が話し始める。
「…うん、ゆっくりでいい。ちゃんと最後まで聞くから」
憂太は相変わらず俺を抱きしめているから身動きできない。
背中をさすってやることすらできなくて歯がゆい。
せめて、自分のペースで話せるように静かに憂太の呼吸が少し落ち着くまで待った。
「とりあえず自分の席に座ろうと思ったんだけど、僕の机に麻生さんの彼氏が座ってて…」
呼吸は落ち着いたものの、憂太の話し声はかすかに震えている。
「そ…のあと、『俺たちが喧嘩してる間に俺の彼女にちょっかいかけてたらしいじゃん。どういうつもり?』って問い詰められて…それで…」
「ちょっと待って。なんだよ、それ。憂太の話と全然違うじゃん」
憂太が話を続けようとしていたのに、我慢できなくて話を遮って聞き返してしまった。
「ちょっかいかけてたの憂太じゃないじゃん。なんで憂太が悪く言われてんの?誰?そんなことしたの、もしかして麻生って子?」
憂太に対しての扱いが、犯した罪を白状させようとしているようにしか思えなくて気分が悪い。
「えと…そう。あとから知った話だけど…麻生さんが彼氏と、クラスのみんなに言ってた」
「クラスのみんなに?」
「…麻生さんがね…僕が『距離を置くっていうのは、別れたのと同じ意味だろ』って言って、あまりにしつこく交際を迫るから、怖くて、少しの間だけ付き合ったってみんなに話してた」
すぐに言葉が出なかった。
憂太にとって良くない話だろうと覚悟はしていたが、想像以上に最悪だ。
麻生さんの話は事実と少し違うどころか、1つも合っている所がない。
ここまで捻じ曲げられた作り話を聞かされると、沸騰しそうになっていた頭が冷えてくる。
「…麻生さんはなんでそんなことするわけ?」
憂太に振られた仕返しだったのだろうか。
憂太をそこまで悪者扱いして何がしたいのか、全く理解できないし、理解したくもない。
ともだちにシェアしよう!