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第64話 不慣れな状況
「…実はあの頃から湊のことが好きだったんだよね」
「え?うそ…?」
「ほんと。僕の方が先に湊のこと、好きだったと思うよ。だから、僕なりにいろいろアピールしてたのに、湊、ぜんっぜん気づかないし、どこまで許されるんだろって悶々としてた」
「へ?」
憂太が目尻を下げ、ふにゃっと笑う。
そんな憂太からストレートに浴びせられる甘い言葉に恥ずかしくなって、思わず顔を両手で覆った。
「あ、湊。なにその反応」
憂太が俺の両手首を掴み、強引に顔から引き離そうとしてくる。
「やめろお!恥ずかしいだろ、ばか!」
悪態をついて手を振り解こうとしても、憂太は手首を掴んだまま離してくれない。
弱くも強くもない力加減で手首を拘束するから、このまま触れていて欲しくて抵抗を諦めた。
緩もう、緩もうとする顔を少しでも引き締めるために唇に力を入れる。
それに、こんな状況に慣れていなくて、顔に熱が集まってくるのを感じる。
「それに…」
「なに…」
憂太の端正な顔にジッと見つめられると、右目を見たら良いのか、左目を見たら良いのか分からなくなってしまう。
「僕も湊みたいなかっこいい男になりたいって思ってるし、これからはもっといい男になるつもりだから覚悟してて」
ふふんっと酔っ払って上機嫌で胸を張る憂太は、出会った最初の頃のモサモサした冴えない面影は全くなかった。
お酒を飲んで心拍数が上がっているのか、憂太の言葉で舞い上がっているのか、自分の心臓の音がうるさい。
何か言い返してやろうと思っても、頭の中で憂太の言葉が反芻して、言葉が出てこない。
「(こいつ…次から次へと……うぅ…)」
俺たちから出る熱で、部屋の温度が2、3度上がってるのじゃないかと思うくらいあつい。
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