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第63話 あの頃から
本当の恋人になる前は「恋人なら〜」とか「彼女なら〜」とか冗談っぽく言って、照れ隠しができた。
恋人になった今は誠実であろうとすればするほど、自分の身を包む全てのものを脱ぎ、真っ裸になった自分の身体を丁寧に、隅から隅まで見せつけているようで心がムズムズする。
それでも、照れくさくても、かっこ悪くても、この関係が大切だから誤魔化さずありのままの姿で接したい。
「俺が聞いたのはあれだよ。あれ、ご飯の誘い?を行かない?みたいなところから」
「え?じゃあ、ほぼ全部じゃん。恥ずかし…」
口元に手を当てた憂太が俯きながら照れている。
「わざとじゃないしさ、偶然だよ、偶然」
「偶然じゃなきゃ困るよ!」
憂太がバッと勢いよく顔を上げて言い返してきたから、思わず「お、おう」と変な返事になった。
「まあ、でも…僕もね、ずっと前に湊が女の子と話してるの盗み見しちゃったことあるから、お互い様か…」
「は?」
突然のカミングアウトに驚いて、口に運びかけていたからあげを机に落とした。
「え?いつ!」
後ろめたい過去がある訳ではないのに動揺してしまう。
「夏休み前にさ、研究室の備品の買い出しに行ったでしょ。その時に高校時代の友達から相談されてたやつ」
「あぁーたしかに、あのとき結衣から相談受けたよーな」
結衣は高校時代に所属していたサッカー部のチームメイトの彼女だった。
「そのとき湊が、彼氏とうまくいってないって言う結衣ちゃんに言い寄られててさ。けど、拒絶するでもなくちゃんと断ってて。それなのに、断られた結衣ちゃんが元気に、笑顔になって帰ったのを見たんだよね」
「そうだったっけ…?」
俺よりも出来事を鮮明に覚えている憂太に感心した。
「うん、相手の誘いに乗って良い思いすることもできたのに、ちゃんと相手のことを想って行動できる湊かっこいいなあって思った」
酔いが回ってきているのか、普段よりも多弁に憂太が褒めてくる。
食べながらテレビが見やすいように、と2人ともベッドを背もたれにして座っているから、隣に座る憂太が今どんな顔をしているのか見づらい。
それでも、あぐらをかいて座るお互いの膝がチョンっとくっついて、触れている部分から憂太の体温が伝わってくる。
「それに…そのとき、僕の高校時代の話を友達の話ってことにして、湊に軽く話したんだよね」
「うん」
憂太がこの間、打ち明けてくれるまで完全に友達の話だと思っていたから、話の内容よりも話した後の憂太が泣いていた記憶だけが残っている。
「じゃあ、湊が『その友達は間違ってない、胸張ってたらいいんだ』って言ってくれて、ほんとに救われたんだ。……だから、実はあの頃から湊のことが好きだったんだよね」
「…え?うそ…?」
今日は次から次へと新しい情報が出てきて、何度同じようなリアクションを取ったか分からない。
それに、憂太に触れている部分がさっきよりも熱を帯びているように感じる。
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