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第62話 やきもち?
研究室でのゼミが終わると、鞄にノートパソコンや筆記用具をさっと詰めて、すぐに大学を出た。
憂太は夕方くらいには訪ねてくるだろうから、それまでに片付けを完了できるように帰る。
家に到着してからは、部屋の中に干してあった服をたたみ、掃除機をかけ、机の上に置きっぱなしの教科書や漫画もまとめて部屋の隅に追いやった。
ピンポーン。
インターホンのモニターを見ると憂太だった。
片付けに夢中になっている間に、太陽が沈みかけていたらしい。
開いてるよ、と答えると、憂太は「お邪魔します」と言って、ビニール袋のガサガサという音と共に入ってくる。
「湊、LINE見てないでしょ」
「え?、あー、ごめん。部屋の片付けに集中してた」
「だと思って適当に買ってきた」
そう言うと、ビニール袋の中からお菓子やスーパーの惣菜を机に並べた。
「うわー!ありがと。腹減ったからもう食っていい?」
目の前で良い匂いをさせているからあげが食べたくて、憂太の返事を待たずに1つ食べた。
「…湊。今日、ゼミ始まる前、なんかあった?」
テレビを見ながら食べていたら突然、憂太が尋ねてきた。
「え、な…にもない…」
憂太と長瀬さんの話を盗み聞きしていましたなんて言えない。
「じゃあ、なんで…あんなに顔赤くなってたの?」
憂太の口ぶりから、何か疑われているかもしれないと思った。
「えぇーっと、ゆうたと長瀬さんが話してるのを聞いてしまったからかも…」
変に言い訳して、喧嘩になるのは避けたくて、正直に研究室の前で立ち聞きしていたことを白状する。
「ええ!?あれ聞いてたの?」
憂太は驚きの声をあげ、目が丸くする。
頭上にびっくりマークが2、3こ飛び出しているようだった。
「聞いてました。すみません…」
研究室の前で、あれだけバレないように静かにしていたのに、自分からバラすなんて、情けなさと恥ずかしさが込み上げてくる。
プシュっと憂太がグレープフルーツ酎ハイの缶を開ける音がした。
「あー。もう…なんだあ。早とちりしてた…」
憂太はグイッと酎ハイを喉に流し込むと、はあ、とため息をついた。
「早とちり?」
憂太の言ってる意味が分からなくて尋ねる。
「湊が研究室に入って来たとき、何か顔赤くて、変な感じだったから…こっちに来る前に誰かと何かあったのかなと思って…」
照れ隠しなのか、憂太は手に持つ缶酎ハイを見ながら話していた。
なんとなく、顔も名前もわからない相手にやきもちを妬いていたのだとわかった。
「えっと…つまり……僕以外の誰かと何か照れくさくなるようなことでもあったのかな、とか思っちゃって。もしそうだったら、湊は僕の恋人だから手出さないでよ、とか思ってた…」
憂太は俺から目を逸らすようにして、グビグビと酎ハイを飲んでいる。
「憂太かわいい…」
素直にやきもちを妬いたことを話す憂太を見ると、今すぐ抱きしめたくなる。
「かわいい?僕が?」
「へ?」
心の中で思っていたはずなのに、勝手に口に出していたらしい。
「…っそれより、湊。どこから長瀬さんと話してるの聞いてたの」
無事に誤解が解けたのは良かったが、今度は照れ隠しをしている憂太に追い詰められている。
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