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第61話 挙動不審
さすがにこのまま研究室に入らないのは無理そうだ。
「あーどうもどうも。みんな元気ー?なんか今日暑くない?」
焦って考えるよりも先にドアを開けてしまった。
「あ、湊くん、おはよー。今ね、憂太くんの彼女の話してたんだよ!」
「へ、へえ…そう…なんだね?」
どんな反応をするのが正解なのか分からなくて、さらに挙動不審になる。
「あれ?なんか、湊くん顔赤くない?暑いって言ってたけど、大丈夫?」
長瀬さんが俺の体調を心配する言葉をかけてくれている。
「あー、大丈夫、大丈夫!着込みすぎたんかも。はは…」
これ以上、話し続けるといろいろ墓穴を掘りそうだ。
それに、憂太が長瀬さんに話していた通り、ソワソワしているのが分かって、自分で自分が可笑しくなってくる。
椅子に座っていた憂太が立ち上がり、こっちに近づきながら、ちょいちょいと手招きしている。
「ん?なに?憂太」
コソコソ何か話したそうな憂太の口元に耳を近づける。
「湊、なんで照れてんの?」
しっとりとした低い声が耳の中に侵入してきた。
「ぐあああ。…っ、なんもない!」
憂太の声が耳を通って、首筋、背筋まで伝ってきて、ゾワゾワっとした。
心配しているのか、驚いているのか、キョトンとした顔で憂太は俺を見つめている。
「だいじょーぶだから、おまえは元の席に座ってろ」
照れ隠しに、憂太の肩をバシバシと叩いて、強引に元いた席へ座らせた。
ふう、とひと息吐いてから自分の席に座ると、スマートフォンからピロンと鳴った。
憂太から「今日、学校終わったら湊の家に行っても大丈夫?」と書かれたLINEが届いていた。
「大丈夫!」と返して、スマホを鞄の中に放り込む。
ゼミが始まると、主に4年生が熱心に卒業論文の進捗報告をしている。
先輩たちは卒論の追い込みをかけるように集中していたのに、俺はチラチラと視界に憂太が入る度に、さっきの話を思い出してしまって全く集中できなかった。
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