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第60話 惚気話

「それに…僕に勇気をくれる強い人だよ。人の感情の機微に敏感で、自分のことみたいに怒ったり泣いたりできる優しい人」 ドア越しに穏やかに話す声が聞こえる。 「あ、でも、自分に向けられる好意には全然気づかない鈍感なところもあるんだよね」 うーん、と首を傾げながら話す憂太の様子が頭に浮かんだ。 「あはは。いいじゃん可愛いくて。それでそれで?」 長瀬さんはパチパチと手を叩きながら笑い、話の続きを促している。 「僕が何かする度に照れて顔が赤くなって、明らかにソワソワしだすから可愛い。あと、多分…本人はバレてないと思ってる」 「なにそのさらに可愛いの!」 長瀬さんは可愛いを連呼していたが、俺は脳の情報処理が追いつかない。 「(え…?俺、そんな感じに思われてたの?)」 これまでスマートに振る舞っていたつもりなのに、憂太には全く違うイメージを持たれていたなんて初めて知った。 恥ずかしさが一気に全身を駆け巡って、ドアノブにかけていた手が汗ばんでくる。 「もう憂太くん、その子にベタ惚れじゃん」 「ふふっ。そうだね」 憂太と長瀬さんの会話を聞いて、今の俺は憂太の言うとおり、真っ赤な顔をしていると思う。 「(こんな糖度100%みたいな話、どんな顔して話してんだよ…あぁ、もう…心臓くすぐったい…)」 俺がいない場で、俺のことをそんな風に話すのは反則だろう、と浮かれていると、「それに…」とまだ何か続きを言おうとする憂太の声が聞こえてきた。 「それに、僕もその人に見合うようなかっこいい彼氏になりたくて、思い切ってイメチェンした!」 「んんっ。ごほっごほ」 反応するのを堪えようとした瞬間、盛大にむせた。 「あれ?誰か外にいる?」 長瀬さんが外にいる俺の存在に気づいた。

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