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【番外編②】卒業まで/憂太の過去(8)
※憂太の過去の回想は今回までです。次から現在に戻ります※
※2人はアイスを2つずつ持って、憂太の家に向かっています※
今日の出来事は自分にとって、あまりの衝撃で帰ってからも食事が喉を通らなかった。
人があんなにも怖いものなんて初めて知った。
それに、まっすぐ向けられる敵意や、悪意なくただ眺めている人の行動全てが怖かった。
「(はぁ、明日からどうしよう…)」
解決策を何度も何度も想定してみても、ただ涙が流れるだけだった。
「……おはよう。今日、朝ごはんいいや。寝坊気味だから、買って学校で食べるよ」
寝付けなかったからか、いつもより遅くに起きてしまった。
「憂太。顔色悪いけど、大丈夫?」
母も姉2人も心配してくれている。
父はすでに家を出ていたから、会っていない。
それでも、家族に心配させてはいけないなと気丈に振る舞ってみせた。
「大丈夫だよ!いってくる」
学校まで急がないといけないのに、速く歩けない。
無意識に身体が竦んでいるのだろう。
学校に着き、靴を履き替える。
心臓の拍動が徐々に速く、大きくなる。
ドクン、ドクンと全身で脈を打っている。
あと10m…教室が近づく。
昨日の隼人の言葉、クラスのみんなの視線、ぶつけた額の痛みが徐々に蘇ってくる。
「……っ」
グラウンドを全力疾走してきたのかと思うくらい、息があがっている。
「(あ、やばい。変な息の仕方になってる)」
ゆっくり吸って、吐く。
ゆっくり吸って…。
情けない自分の姿に泣きたくなってきた。
そんな状態のまま、教室のドアに手をかけ、ゆっくりとドアをスライドさせる。
カラララ。
1歩踏み込むと、クラスのみんなの話し声が昨日と同じように一瞬シンっと静まった。
「(だめだ。これ…)」
今度は自分でもわかるくらいに呼吸ができない。
「(くるし…)」
またパニックになる。どんどん視界がぼんやりしてきて、気を失ってしまった。
「おはよう。そのまま眠っていてもいいわよぉ」
この温かみのある声は保健室の先生だ。
ということは、やっぱりまた倒れてしまっていた。
過呼吸になって。
「すみません…」
僕の小さな声を聞いて、先生が近くにやってきた。
「あのね。今、きっとものすごくつらいことが起きていると思うの」
「はい…」
返事をする声が震えて、情けない小さな声になっているのがわかる。
「でも、こうして学校に来ようとしてくれてるでしょ。1つ提案なんだけど、教室に入りにくいなら、保健室に来ない?」
「…え?」
「ここ。落ち着くでしょ。静かで」
先生の言う通り、保健室は教室や廊下、体育館と違って静かだ。
こうして、誰かと話せるだけでも心が和らぐのがわかる。
「いずれ、ちゃんと説明するので…少しの間、ここに居させてもらってもいいですか…」
「いいわよぉ。もちろん。ゆっくり休んで回復しなさいね」
「……はい。あ、ありがとうございます…」
家に帰ったら、お母さんに相談しよう。
普通に人にとっては、それくらいって思う出来事なのかもしれない。
でも、ほんの少しの間だけ休ませてほしい。
こうして、学校に登校したら保健室にまっすぐ向かい、放課後になれば家に帰る。
こんな生活を卒業するまで続けた。
保健室の先生も担任の先生も、3年生で卒業まで後少しだからということで例外的に認めてくれた。
正直、ほっと安心した。
高校の卒業式には行かなかった。
送られてきた卒業アルバムは1度も開けていない。
大学生になったら、きっといろんな人と出会う。
「(信頼できる友達ができたらいいな。一緒にゲームしたり、ご飯食べたりしたい。できるなら、愚痴とか悩みも聞いたり話したりしてみたいかも)」
見た目はもう整えなくていいや。
コンタクトも眼鏡に戻そう。
恋はしなくていい。
信頼できる友達が欲しい。
そう思いながら、卒業式の前日に制服もネクタイも段ボールにしまった。
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