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第15話

 俺は一瞬スマホを耳から離した。 「ああ、俺、元気ないの、雅人にバレてたんだ?」  小さな声で訪ねると、ふっ、とあきれたようなため息が聞こえた。 「すぐわかるよ」  絶賛叱られ中なのに、その言葉がうれしかった。俺のことを気にかけていてくれていた。俺の演技に気がついてくれた。 「ごめん。本当にごめん。俺まだガキだったから。そういうこと真剣に考えてなかった。雅人と距離を置いて初めて、失うのが怖くなった。なんにも伝えなくても、努力とかしなくても、俺らはずっと一緒だって――そんなことありえないのに――都合のいいこと考えていたんだ」  俺は、つっかえながら一生懸命言葉を紡いだ。  雅人は少し黙っていたけれど、やがて、くす、と笑った。 「……いいよ。俺だってずっと怖かったんだから」 「怖い?」 「世間ではLGBTの権利を認めましょうって雰囲気になってるけど、いざ自分がそういう生き方を選ぶとなると、まだいろいろ不安でさ」  そうか、雅人はそこまで考えていたんだ。 「告白して、お前が俺を恋人に選ばないならそれは仕方ない。でもお前が仮にOKしてくれたとしても……」  雅人が言葉を詰まらせる。 「俺がそういう生き方にお前を巻き込んだみたいになっても、お前がちゃんと幸せになれるかなって……それが心配で」  語尾は涙声になっていた。  胸が痛くて、俺は自分の胸の部分の服地をぎゅっと掴んだ。  先に雅人をひとりで悩ませてしまったのは、俺のほうだったんだ。  伝えなくちゃ、俺がずっと幸せだったこと。それは雅人が側にいてくれたからだったこと。  これからも離れずに、より深い関係を作っていたいと思っていること。  異性愛とか同性愛とか、俺にはどっちでも同じ。  ただ雅人が好きだっていうこと。  スマートホンを持ち直し、上体を起こして改めて気持ちを伝えた。 「俺は、雅人といられてずっと幸せだったよ。でもこれからは、俺も一緒に悩んだり、考えたりさせてほしい」  うん、と返す声は鼻声だった。  そのあと、雅人は一度鼻をすすってから、甘い声で囁いた。 「言ってもいい? 今度は間違えようのない言い方で」 「言ってよ。俺バカだからさ」  俺も、声をひそめる。 「好きだよ、陸也」 「俺も、好きだよ、雅人」 「三月になったら、行こうな、デート」 「うん」  俺はいつのまにか濡れていた頬を指先でぬぐった。  神様、ありがとう。  メッセージ、誤爆させてくれてありがとう。  俺、幸せになりました。

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