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第8話 〜哨戦〜

 勤めている店と暗さは変わらないけれど、なんだか空気が違うバーへ丈瑠に連れてこられた。 「丈瑠さん、俺明日友達来るんで遅くなれないっすよ」 「前から言ってるけどさ…」  カウンターに座ってすぐに、そう言うてつやの話を聞かずに丈瑠は話を始める。 「誠一郎さんを呼び捨てにしておいて、俺をさん付けにするのはダメだって言ってるでしょ。俺のことも丈瑠って呼んでよ」  もう、どいつもこいつも無理難題ばっか!  誠一郎のことも口に出して名を呼ぶことは滅多にないのだから別に丈瑠をさんつけたっていいじゃん、がてつや理論。  でもそれは許されなくて… 「いらっしゃい、丈瑠ん♪ 珍しい子連れていてるじゃないの。珍しい子って書いて珍子ね」  嫌だ〜私ったら と濁声全開で、この店のママ玄ちゃんが口元を扇子で覆って馬鹿笑いをする。 「てつやくんでしょ?いらっしゃい、初めまして。『魔ランド』のママの玄ちゃんです」  名刺を渡された。 「初めまして。バロンのてつやです」 「こいつウリやってないから、この店来る機会なくてね。そろそろママに顔つないでおこうと思ってさ」  丈瑠がハーパーロックでと注文し、こいつにはコーラかなんかあったらと言ってくれた。 「知ってるわよぉ、あのお店で良く『守って』るわね。感心するわ。だって丈瑠んみたいな淫売いっぱいいるでしょう?あそこ」 「ママ、淫売はないでしょうよ」 「違うの?」 「違うよ?淫乱だよ」 「変わんな〜〜〜い」  また馬鹿笑いをして、ドリンクを出してくれた。 「じゃ、また来るけど、てつやくん、ごゆっくりね」 「はい」  と答えて、一息。 「いきなり来られたな」  丈瑠が笑って、グラスを当ててきた。 「すごいっすね…圧…」 「なー。あの圧は俺も毎回一回はやられる」  店を見回すと全て同性のカップルで、しかも全員が身を寄せあって親密に話し込んでいる。 「ここは…?」 「ん?ああ、ここはさ、うちみたいな店から直接ホテル行ったりする人たちも多いけど、ちょっと食事をしてその前に一杯飲んで気分あげたりする時にって寄る人が多い店だよ。俺も結構ここに来るかな」 へえ…と、もう一度見まわした。  雰囲気を上げるにはママさんがいささか元気だが、それでも『直前』の変な緊張感は確かになくなるかもな…などと店内をぐるりと一周めで追っていたら見覚えのある顔が… 「よう、ここでは珍しい組み合わせだな」  と、やってきて、後ろから2人の肩を同時に抱えるようにした。誠一郎だ。 「あれ、誠一郎さん。見回りですか?」  丈瑠(たける)が席を空けようとするのを止めて 「そうそう。今日はここで終わりだ。てつやどうだ?だいぶ上手くやってるみたいじゃないか。柏木も褒めてたぞ」  と肩を叩く。 「ありがとうございます。お陰様でだいぶ馴染んできました。楽しく仕事させてもらってます」 「そうかそうか。丈瑠も稜もいるしな、頑張れよ」 「はい、ありがとうございま…」  そこまで行って誠一郎に人差し指で唇を押さえられた。 「俺の女なんだから…」  にっと笑って敬語は慎め、と小さな声で言って屈んでいた腰を起き上がらせた。  誠一郎とてつやがいるところを、店の半分の人間が見ている。 『誠一郎の女』と呼ばれるてつやと誠一郎が一緒にいる貴重な絵面だ。  滅多に見られない。誠一郎が一緒にいるところをあまり見せないという意味は=『大事にしている』と捉えられて、ここでもてつやの存在を堅固なものにしている。 「じゃあ行くから。丈瑠、頼んだぞ」  てつやの頭を撫で、その手で丈瑠の肩も軽く叩きそう言う。 「うっす。お気をつけて」  頭を下げて、丈瑠も挨拶をした。 「びっくりしたなー」  笑いながら丈瑠はおかわりをバーテンの子に頼む。 「本当あの人神出鬼没」 「ほんとにね」  とてつやもコーラを口にした。  しばらくは店のことや、てつやの友達のこと、丈瑠が夢見てる店のこととかを話していたが、少し酔ってきた丈瑠は目付きが艶っぽくなってくる。 「お前がさー、売りしない理由は聞いたけど…売りじゃなければ…できるわけ?」 「ん?どう言うこと…?」  もう何杯目かのコーラをちびちび飲んで、訳のわからない質問に首を傾げた。 「あのさ…」  これまた酔って口調が甘くなってきた声で、丈瑠は自分の飲んでいるロックのハーパーをてつやのコーラにそそぎこむ。 「あー!なにすんだよー。飲めなくなっちゃったじゃん」  新しいのを貰おうとバーテンダーに顔を向けようとするのを丈瑠に止められ、 「飲め!」  と、いわゆるコークハイになってしまったものを強要された。 「酒類の未成年への強要は…」 「うるっさいな、飲めって〜〜」  丈瑠はコークハイを自分で口に入れ、それをてつやにキスをして直接流し込む。  身体を硬直させてナスがままのてつや を見て、玄ちゃんママがやってきた。 「ちょおっと丈瑠ん!この子酔わせてどうするのよ。ダメじゃないの飲ませたら」 「いいのいいの。そろそろね、酒の一杯も飲めないと困るのはこいつだから」  もう一回、と言いながらコークハイを煽るが、それは流石にてつやに止められる。  しかしてつやは、意外な事にも気づいてしまった。  キスされて別に嫌ではなかったのである。 『あれ?』  と、内心そっちにドギマギしていた。 「てっちゃん大丈夫?こんな淫乱に捕まっちゃダメよぉ?はいお水」 「もー、ママ!俺は淫乱じゃなくて淫売…あれ?」  そこまで酔っているようにも見えないが、結構頭は回らなくなっているようだ。 「そろそろ帰ろう?丈瑠ん」  ママの呼び方が気に入ったのか、呼び捨てるならこの呼び方の方が抵抗がない。 「丈瑠んて」  丈瑠は笑って立ち上がり 「ん、帰ろう」  足取りはしっかりしているようだ。財布から一万円を取り出しカウンターに置くと、  「お釣りはいらないよ〜。足らなかったら後で言って」  と、てつやの肩に腕を回して店を出た。どうやら奢らなくて良くなったらしい。  てつやはまたきます〜とだけ告げて、一緒に店を後にする。 「あれは…てっちゃん食われるわね…今日…」  玄ちゃんママの目がきらりと光った。 「家どこなんよ。タクシー拾う?」  クリスマスを来月に控え、街は賑やかな装飾でいっぱいだが、そんなものも目には入らずてつやは丈瑠に肩を貸している。  そんなに足取り悪くないのに肩に捕まっているものだから、具合でも悪いのかと心配になったが、丈瑠はのんきに 「家はあっち。タクシーはいつでも拾えるっしょ」  もう言ってることがわかんない。 「どうするんだよ、どこに行きたいの丈瑠んは」  寄りかかられてはいないから重くはないが、当てもなく歩いてもどうしようもなくて、てつやはタクシーを拾ってしまおうと道路側へと向かった。  が、すごい力で知らない店の脇の細い路地に連れ込まれ 「俺で、慣れてみる?」  と唇を重ねられる。 『この人酔ってないじゃん』  そう思うのは少し遅かった。  顎を親指で引かれ、唇をこじ開けられ舌を挿入される。  初体験の女性にも何度か相手をしてもらい、色々勉強させてもらったが実践経験は数えるほどだ。でも丈瑠のキスは心地いいし巧み。 「んっ…ちょ…たけ…ん」  180ちょっとの自分よりもでかい丈瑠のキスを受けながら、京介くらいかな…などとなぜか京介の顔が浮かんでくる。なんでだ?身長のせいか。 「なあ、やめてくれよ…丈瑠ん」 「やっぱ無理そう?無理強いはしたくないけど…」  ほっぺにチュウとかしながら、優しい声で聞いてくれる。 「思ったより嫌な感じはない…けど…」  事件があってからまだ1年ちょっとだ。たった一年で、こう言うふうに…なんていうか男を受け入れてしまうのは流石に迷いがあった。  しかし不思議と恐怖感やトラウマが再燃することもなく、丈瑠のキスは気持ちがいい。 「てつやの初めて…欲しいんよね…」  それは…どう言う意味だろうか… 「気になってたんだけどさ…」  てつやははぐらかしたくて、ひとつはっきりさせておきたいことを聞いてみる。 「丈瑠んて…ゲイなん?バイなん?」 「んー、俺?俺はね…ゲイなんだよ〜残念?」 「なんで残念なのかわかんねえ。そうなんだってだけだけどさ」  言葉が続かない。 「な、いい?てつやの最初、俺が貰っても…」  首筋とかにも唇を這わせられ、いちいちビクンと反応してしまう。 「うん…って言えると思う…?」 「言えないん?」  てつやは黙り込む。  強引に連れて行かれたら、自分に言い訳もたつ…のだが… 「お友達のなんだっけ、銀次君?みたいに、最初は好きな人がいい?」  そう言われて、また京介の顔が浮かんできた。さっきからなんなんだよ。と、内心ちょっとイラっとする。 「好きな男が…いるわけない…」 「それもそっか」  未だ首筋とかへ唇を這わせ、時々吸っては移動し、そしてまた唇へ戻ってきた。 「んっ…やっ……」 「…俺感じてきた…いや…?」  てつやの後頭部へ手を回し、自分へ引き寄せるようにしながら舌を絡ませる。息継ぎが大変…時々離れてまたくっつく。  うわ…大人のキスだなぁ…知らずのうちにてつやの息も上がってきている。 「感じてるじゃん…?てつやもさ…」  右足を足の間に入れられ、太ももで股間を撫でられた。そうしながら自分の股間もてつやの太ももに押し付け 「お互いこんな…」  息がかかる距離で見つめ合い、丈瑠は笑う。 「どうしよ…押さえらんない…」  てつやの頭を押さえて、頬や額や髪やらにチュッチュチュッチュキスをして、丈瑠は紛らそうとしている…がそれももう限界 「いい?俺許可出ないとできないよ…お前の過去…辛いから…。いい?」  声もうわずっていて、てつやはもう流されそう 「許可…はだせない…うんなんて言えない…けど…」 「けど…」 「丈瑠の好きにしていい…」  丈瑠は一度ぎゅうっと抱きしめて、じゃあ…と手を引いて歩き出した。

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