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第15話 〜思春〜

 全員で果てて、どのくらい経ったか…    てつやの携帯が鳴っていた。  スマホが出始めだった頃なので、てつやはまだ切り替えていないから、音でてつやのだとわかる。  気怠い体で居間まで這って携帯に出るとまっさんだった。 「お、出た。寝てたか?わるいな」 「いや、平気。確かに「寝て」たけど」 「お袋が晩飯持ってってやれって言うから、7時頃行くけど平気か?」 「あ、うん」  言いながら時計を見ると5時50分頃 「大丈夫だよ、悪いないつも。7時なわかった」  ここで断っても、なんだか後めたくててつやはいいと言ってしまう 「ついでに今日のすり合わせやろうぜ。なんか落ち着かなくてさ。京介も誘うから」 「そうだよな、それは今日の方がいいかもだし、待ってる」  電話を切って、ベッドへ戻る。  気怠さのまま横になるが、稜が 「お友達くる?」  と起き上がった。 「ん、わるいな。断れない相手なんだよ」  相手というか、晩御飯を作ってくれている人のこと。 「そっか、わかった。じゃあ僕たちはそろそろ…丈瑠ン起きて」  うつ伏せで犯されてそのままぐったりと寝入っていた丈瑠を、稜は優しく起こして、シャワー借りていい?とてつやに聞き案内されて浴室へ消えた。 「気持ちよかった?」  顔だけをむけて、丈瑠が聞いて来る。 「急に始まって何が何やらわからないまま今になってる感じだ」  苦笑して、てつやはタオルを用意して浴室の稜に渡しに行った。 「大体お前らはプロだろ…俺には太刀打ちできねえよいっぺんに2人の相手なんてさ」  戻ったてつやはテーブルに残っていたコーラを飲んで、少し片付け始める。 「まっさんくるのか?」 「うん、あと京介。今日の答えのすり合わせしようってさ」  京介と聞いて、丈瑠の口元が緩んだ。  起き上がって、 「俺も会いたいな、まっさんと京介くん」 「だめ」  食い気味に断られた。 『俺が今日ここにいること京介クンが知ったら、どんな顔するか見たいだけなんだけどな〜』  といたずら心が疼いてくる。 「丈瑠ン起きたの?シャワー借りて浴びてきなよ。てつや友達来るんだってさ」 「うん、知ってる。いまお友達と会いたいなって交渉中」 「やだって言ってるだろ。世界は分けたいんだよ」 「だよねー。ほら、子供みたいなこと言ってないで、さっさと浴びておいで」  稜に急かされて、丈瑠も浴室へ向かった。  タオル僕の使え、と笑って投げて、稜は残ったシャンパンをラッパ飲みする。 「手伝うね。残ったのはみんなで食べなよ」  残ったものとはいうが、殆どが残っていて手をつけていないものもある。 「なんか持って帰るか?ほとんど残ってるけど」 「ううん、大丈夫だよ。帰りは丈瑠に何か奢らせるし」  イタズラにそう笑って、片付けを始める。  グラスをシンクに置いて 「洗う?」  と聞くが 「いいや、あとでまとめてやるから。グラスだけだろ」  との返事。そう?と言って、服を拾って身につける。 「てつや、よかったよ〜またしようね」  と、いって稜はチュッとキスをしてきた。 「さっきも丈瑠に言ったけど、稜たちは半分プロなんだし…今度があるなら、1人ずつにしてな…」  照れてるのか顔も見ずにそう言って、ダスターでテーブルを拭く。 「あはは、わかったよ。今日はしんどかった?」  うん…ちょっと。と言って、ダスターを流しに投げ入れた。 「ところで…ベッドあのままでいいの?グッシャグシャだけど」  ああそうだった!と 声をあげ、慌てて隣へ入ると床に放り出されていた制服のズボンを拾いハンガーに掛け、押し入れから洗濯済みのシーツを出すと稜に手伝ってもらってシーツを張り替え、掛け布団をかけ直してなんとか体裁を整えた。  汚れたシーツは、丈瑠が出たら浴室にでも隠そうと決める。 「あ〜焦った。あんなシーツ見せらんねえとこだったわ」 「確かにすごかったね」  と稜も苦笑し、気付いてよかったよーとコートを取りに元の部屋へと戻った。   丈瑠が思ったよりじっくりシャワーを浴びてくれたせいで、2人が家を出るのが6時45分頃になってしまう。 「もう!丈瑠ン常識ない!早く服着て!」   それでも稜に急かされて、急いだ方だ。 「じゃあね、また遊ぼうね。2次試験がんばって。後期はないからね」  最後まで釘を刺して、2人は部屋を後にする。  てつやはもう、自分がシャワーを浴びる時間はないと、とりあえずギリギリまで浴室で、体と…いろんなところを熱いタオルで拭いておく事にした。  階段を降りながら稜に説教されている丈瑠は、歩いてきたまっさんと京介にばったりと遭遇してしまった。 「あれ…こんばんは。きてたんすね」  まっさんが挨拶をして話しかける。 「うん、センター終了のお祝いにね。君たちもお疲れ様だったね」 「ありがとうございます」  にこやかなまっさんの後ろで、不機嫌そうに一応頭を下げる京介。  稜は2人に 「初めまして。同じ店でバーテンしている、葛西稜です」  とぺこんと頭を下げた。営業用の微妙に高い声だ。  稜の格好といえば、膝丈のグレーのコートにモフモフとマフラーを重ね、ピッタリと綺麗な足にフィットしたパンツに足首までのショートブーツ姿。  2人は女子と勘違いしそうだが…。  可愛らしさは世界共通。不機嫌な京介でさえ、少し顔が緩む。 「広田正直(まさなお)です。てつやからは『まっさん』って呼ばれてます」 「まっさん!知ってる。よろしくね」  稜は営業スマイル全開でまっさんの手をとった。 「浅沼京介です。てつやからは…」 「京介くん!てつやは京介京介って何かというと京介って。仲良いんだね」 ーえ…ー  可愛い顔で微笑まれた上に、その赤い口から何だか嬉しいことを聞いた。 「いや、あいつが手がかかるだけっす」  ちょっと顔がにやけそうで、必死に筋肉を押さえる変な笑みを浮かべてしまう。 「ほんとだよな」  とまっさんも笑った。 「京介くん、よろしくね」  まっさん同様手を取って、にこにこ。 「答えのすり合わせだって?今日じゃないとまずいもんね。頑張って。それじゃ俺らはこれで。あ、2次試験もがんばってなー」  丈瑠は京介の反応が面白すぎて、笑いを堪えるのに必死。早いところこの場を逃れないとやばかったから、早々に挨拶を締めた。 「頑張ってください」  ファイトポーズをして稜もエールを送り、2人は去っていった。 「随分可愛い子だな。彼女かなんかかね。それにしてもなんだかんだ面倒見のいい人たちだよな」  勘違いした人いた。 「てつやの店のバーテンって言ってたじゃねえか。騙されんな」 ーあ、そっか。しかし可愛かったなー  まっさんは笑って、外階段をのぼっていくが、京介は丈瑠と稜の後ろ姿を見送って、またモヤモヤした気分を甦らせていた。    「ねえ?丈瑠ン」 「ん?」  てつやのアパートから大通りを目指して歩いている最中、稜が首を傾げた。 「さっきのてつやの友達さ、京介くん…?なんであんなに不機嫌だった?いつもなのかな」  それにはもう我慢できませんというふうに丈瑠は盛大に吹き出して、公道ではあるが声を出して笑ってしまった。 「なに、ばっちいなあ…なんなの?」  少し離れるまで我慢していたい丈瑠は、やっぱり稜も気づいたかと思ったら面白くて仕方がなくなった。 「やっぱお前も思うよな、不機嫌」 「うん、かなりね。まあなんか不機嫌なのは丈瑠にだけだと思って、僕は愛想よくしとけばいいやって思ったけど」 「あの場じゃわからなかっただろうけどさ、あの京介クン、ぜってーてつやのこと意識してんだわ」 ーええ?まさかーと、一瞬丈瑠の顔を見返す。 「ゲイがそんなにいたら、僕も丈瑠ンも困らないでしょうよー。あ、でも…」   と稜は思い返して気づいたことがある。 「そういえば、てつやが京介くんばっかり言ってるって言ったら、あの子喜んだ顔してたよね…」 「な?わっかりやすいだろ。多分あれって自分の気持ちも気づいてないっていか、なんでこんな…って毎日悶々としてそうじゃね?」 「ああ〜なるほどね〜。確かに面白い」 「最初に会ったときは、俺がてつやと最初にやった日の次の日でさ、何かと敏感に察知したっていうか…。そんなん、てつやをそういう目で意識してないと感じられないって。あの時以来今日会ったけど途端に不機嫌だもんよ。絶対なんか思ってるよな」  コートのポケットに両手を突っ込んで、稜も考えながら歩く。 「思春期だねえ…」  一月も中頃。今日は特に寒く、空は少ないが星がちゃんと見えるほど澄んでいた。 「そんな頃あったよね。男の子好きになっちゃって戸惑っちゃうとかさ」 「まあ…あったな」  苦笑して稜に並ぶと、 「お前初体験かっこ男かっことじ は何歳だった?」 「何その言い方、うける。僕はね、16歳だったかな。おじさんだった」  ふふッと笑うのは、何かを思い出したのか。 「おじさんキラーは。最初からだったんだ」 「丈瑠は?何歳?」 「俺は、大学入ってからかな。んっと…柏木さんが最初」 ーえ…ーと、稜は何だかすごいものを見るような目で丈瑠を見る。 「入店テストみたいなやつだったんだけどさ。てんちょーは、俺が経験あると思ったらしくてな、簡単にほぐして挿れてきて…」  面白そうに笑って思い出している丈瑠が、稜は何だか微笑ましく感じた。 『自分の気持ちに気づいてないのは丈瑠ンもじゃん』  稜は知っている。入店テストなんて自分含めて誰も受けていないことを。てんちょーも丈瑠が好みだったんだなーと話を聞きながらそんなことを考えていた。  一通り話を聞いた頃、大通りに出た。 「色々あるよねー僕たちも」 「だな。てつやと京介クンもこれからだな」 「でも、それは僕たちがてつやに言っちゃいけないことだからね。絶対に言っちゃだめだよ」  確かにまだ不確定な高校生の気持ちを、他人が代弁する必要なんかない。  いつか京介が素直にてつやに言える日が来るか、気の迷いだったと思える日が来るかは誰にもわからないのだから。 「え〜ちょろっと揶揄うのもだめ?」 「だめ!匂わせたりしたら、一晩中寝かさずに犯すよ」  果たしてこれが抑止になるのかは謎だが、一応丈瑠は怯えたので効果はあるっぽかった。 「ていうか…」 「ん?」 「丈瑠、経験なしであの店で働こうとしてたの?」 「まさかウリがあるって知らなくて。バーテンダーで応募したんだけどさ。なんかやられちった」  へへっと笑って先に立つ。 『まさか店長狙い撃ち?』  とは思ったが、まあそれはどうでもいい話だった。 「ういすっ」  鍵の空いていたドアを開けて、まっさんと京介はてつやの部屋へ入っていった。 「寒いのに悪いな」  一応迎えに出て、持っていた荷物を預かって居間へ向かう。 「今、下で丈瑠さん…だっけ、と可愛い子とあったぞ。センター終了のお祝いに来てたんだって?」 「可愛い子?ああ、稜か。確かに可愛いけど…なぁ…」  てつやは色々思い出して複雑。 「やっぱり言い方悪かったらアレだけど、自分を磨いてるんだなああいう人。丈瑠さんもいい加減綺麗だしかっこいいしな」  もうてつやには、丈瑠がかっこいいとかは思えなくなっていた。あの店にいると美形のインフレが起こってしまう。  そう考えれば、売り専の子達も結構綺麗にしている。髪型や服装もそうだが、肌も綺麗にみえた。 「それよりこれ見てくれよ、デパ地下の惣菜とデリのやつ。丈瑠と稜が持ってきてくれたんだけど、あの人らあんま食べないで帰ったんで食おうぜ」 「美味そ〜」  京介もコートを脱いで座って、てつやが用意しておいた箸をとった。 「これも一緒に食ってくれよ、デパ地下のとは比べもんにならないけどさ」  と、二つある容器の大きい方をだしてくれた。 「こっちは明日の朝飯に食えってさ」  と小さい方の容器をテーブルの下に入れる。 「サンキューなぁ。後で電話しておこう。感謝」  大きな保存容器には、半分に煮魚、卵焼き、ポテトサラダ、豚肉の生姜焼き、ゆで卵等。残りの半分は俵形のおにぎりが12個ほど。 「なんかこっちの方がうまそうだよな」 「「たしかに」」  俺ら庶民〜と笑って、それでもそこにあるものを軒並み食い尽くした成長期。

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