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第28話 〜仲間〜

「えええええっお前その頭どうした!」  丈瑠が頭を撫でグリして、てつやの茶色い髪を撫で回す。  次ぐ日の昼間、午前中で講義が終わったてつやはその足で美容院へ向かい、今までのハイトーンアッシュグレーの髪を茶色に染め替え、髪型もショートヘア襟足短めでばらついた前髪のなんか普通の髪型に。  稜には 「佐◯健じゃ〜んかっこいい〜」  と某芸能人を名指しで言われ、まあ確かに似ていないこともない…髪型が。  お客さんにも好評で、髪型で変わるもんだなぁとみんな同じことを言ってきた。  まず髪型を元に戻すことから始めることにする。昨日京介を不安のどん底に陥れたのは大反省。まずは見た目からということだ。  てつやの今日のアドベントカレンダーメモは、明日お客さんと同伴することなので、さっき重田さんとエッチなしの同伴が約束できたので、完了していた。 「てつやくん、この後空いてるかい?」  常連客の外山さんが、てつやに声をかけてきた」  外山さんはここには純粋に飲みにきているお客さんで、雰囲気が好きだと言ってくれている。 「え?外山さんてつや誘うの?珍しいね。でもウリやってないよ?」  丈瑠がフォローのつもりで声をかけてくれたが、   「あはは、違うんだ。ちょっと話があってね」  外山さんは建設会社の社長さん。この市では割と知られている会社だ。 「話?なんでしょう」 「ここじゃなんだからさ、終わったら違う店に行かないかなって」  まあ…ヤらないならいいけど…と少し考えてしまうが、それを察したのか 「ほら、この間言ってたじゃないか?商用ビルの話」 「ああ、あの話ですか?え、何か聞かせてくれるんですか?」 「うちの会社の話でよければね。少し自分権限で話せることをてつやくんへの(はなむけ)にしようかなって」  てつやは今からロードのことを考えていた。  ロードに参加するには、会社員や勤め人ではなにかと不便だろうなと感じていて、できれば不労所得でもあったらなと考えていた。  まずは手っ取り早くビルのオーナー辺り。  同じ経済学部の友達に不動産屋の息子がいて、そう言う人はいっぱいいるときいて、その辺が気になっていたのだ。 「ありがたいです。時間はあるんで、おねがいします。あ、寿司が食いたいです」  外山は笑って、いいよと言ってくれた。 「あっやしー。外山さん聞いてますよ〜。結構激しめだって」  今日はてつやも見ていたが丈瑠は少しお酒が進んでいた。  今ちょっと酔っていそうだ。 「そうだよ〜、僕は激しいのが好きなんだよ〜。今度丈瑠くんどうだい?」  ニカッと笑ってそんなことを言う外山に 「ボクハヤサシイエッチガスキデス」  などとロボットみたいな声で言い返して見る。 「うっそだ〜、丈瑠は激しければ激しいほど燃えちゃうやつですよ、外山さん。今度ぜひ誘ってやってください」  フォローしてもらったのでフォローし返したけど…なんか違う?みたいな顔で丈瑠をみて、わざとらしくてつやは肩をすくめる。 「おまえ…何を証拠に…」  と言いかけて、柏木の…を知っているてつやには何も言えなくなった丈瑠だ。 「じゃあやっぱり今度、誘ってみようかな、丈瑠くん。僕は『そう言うクラブ』に行って楽しむんだ。一緒に行こう」  揶揄っているのが分かる言い方で、外山も楽しそうに話している。 「『そう言うクラブ』ってなんです?」  てつやがおぼこい事を言ってくるのに、今更あ?と外山と丈瑠がびっくりする。 「え?知らないとダメな感じ?」 「あ、いやいやそう言うんじゃないよ。でもね、これから普通のって言うか今でも普通だけど、一般社会に戻る君には敢えて言わないでおこう」  優しい外山の言葉に納得しそうになるが、ーええ〜ーと丈瑠に縋るが、 「オキャクサンノイウコトゼッタイ」  とまた変な声を出してケムに巻かれてしまった。  その日の夜は、てつやには実に有意義な話が聞くことができた。  深夜の寿司屋の個室で外山の会社の話や、不動産の部署の話、テナントビルの収益の算出法やメンテナンスのことやらいろいろ聞けて大満足。 「てつやくんもいろいろ勉強してるようだね。この道に進むのかい?」 「いやぁ、まだいろいろ模索中です。ただ勤め人になりたくないっていうか…訳あって自分を自由にしておきたいんで、そう言う道で性に合ったものがあればいいかなと」  会社を起こした外山に言うのは少し恥ずかしい気もしたが、嘘を言う必要もなく、素直に話した。 「じゃあ会社起こしちゃえばいいのに」  簡単にそう言うが… 「僕もね、いろいろ勤め人やったけど、やっぱり人と付き合うのは難しいよね。要らない軋轢とかあるし。だから会社起こしたんだよ」  目から鱗だった。そう言う理由もありなんだ。 「でも社長となると、また色々大変でしょう?」 「会う人は決まってくるし、社長に圧をかけてくる人物はそうそういないよ」  とイタズラっぽく笑ってくれた。  まあ、圧が嫌とかではないけれど、務めると人間関係という仕事に関係ないところで煩わしいこともあるだろう。 「外山さんみたいな人でもそれなら、俺なんて絶対会社員無理だ…そういえば友達4人いるんですけど、二人が大学出たら自営なんですよね。あ、一人は専門だけど。そういうのに憧れもあるかも」 「まあ、新卒で社長になる子もいるけど、少しずつやっていく手もあるし。まずは不労所得を成し遂げないとだね」 「はい。そのために頑張って貯金増やさないと」 「そう言えば立ち入ったこと聞くから別に答えたくなければいいんだけど、お店の給料はそこそこいいだろう?辞めて学費はどうするんだい?」 「あ、学費は4年分納めちゃたんで、もうでかい金が動く心配はないんです」 「全額一遍にってこと?」  流石に驚いて、口にした酒を音を立てて飲み下した。 「はい、色々あって家賃もめちゃめちゃ安いし、無駄遣いを控えれば入学時にはだいぶ貯められました」 「がんばったねえ〜〜」 「親に頼れないんで、やるしかないっすよね。でもそれ払ったらだいぶ楽になって、今は少し遊べます」  そうは言っても、たまにしか店にも行かないが、てつやがガツガツとボトル入れてくれ〜とか言ってきたこともないし、こうやって誘わなければ食事連れてってなどと言われたこともなかった。 「本当に頑張ってきたんだね。親御さんのことは聞かないけど、よっぽどの覚悟だよ。何かあったら連絡してよね」  そう言って名刺を出してくれた。 「ああ言うお店で遊んでいるとあまり出さないけど、てつやくんには渡しておくね」  多分柏木は持っているだろうが、店の子に渡すのは異例だ。 「ありがとうございます。なるべく連絡しなくて済むように頑張ります」 「もしもビルを建てたりメンテナンスとかあったら是非うちにね」  抜け目ないなーとお互い笑って、もっと食べなさいと促されお寿司も堪能した。  帰り際に、セックスなしと言うことで、てつやは割り勘を望んだが、外山はそれを断固として断ってきて、あまつさえ店に連れ出した代金も払うという。  そこは本当に勘弁してほしいと言って、そこは妥協してもらった。 「勉強もさせてもらって、ご馳走もしてもらったのに。外山さんにメリットなにもないじゃないですか」 「てつやくんの将来が僕のメリットになるように頑張ってくれたらいいよ」  背中を押されて半分は納得したが… 「なに?納得できないかい?ん〜じゃあこうしよう」  ちょっときて、と店から出た路地の端に連れ込まれて、優しくキスをされた。  ちゅっと音がする程度の軽いキス。 「これならいいね。エッチなことしたってことで」  笑って、じゃあタクシーでも…と行こうとする外山を引っ張って首に手を回すとてつやからキスをして、舌を絡ませた。  外山は少しびっくりしたようだが、てつやの腰に手を回してそれを楽しんでくれる。 「こんなんじゃ足りないけど…」  顔を話してそう言うてつやに 「お店( あそこ)のお客で、てつやくんとこんなことした人いるの?」  と外山が聞いてきたので、いないと答えると 「十分価値のあるキスだよ」  とまた軽くちゅっとして、 「さあ帰ろう」  と 歩道へと戻っていった。  タクシーを止めてもらって、その上タクシー代まで渡されたてつやは、辞めるまでもう来ないだろう外山に感謝して、別れた。  本当にいい人にしか出会わないな…俺… 12時前よりは灯りは減ったが、まだ明るい裏新市街を走るタクシーの車窓に思いを馳せて、あと3日か…と呟いて軽く目を瞑った。  最後の日は、淡々と過ぎていった。  この日はアドベントはもうなくて、てつやの最後の勤務だと知るお客が短い時間で会いにきてくれて、言葉を残していく。  なぜか男の子たちも連れ出されずに、6人いる待機組も全員来ていて、最後の日に花を添えてくれていた。 「こんな特別扱いいいのかな」  困ったような顔でてつやは丈瑠に言うが、 「この店は俺が知る限り、ウリしないでバーテンだけしてた奴いなかったんだよ。毎回店に来ると必ずいるてつやは、知らずみんなの安心になってたんじゃね?俺もそうだしさ」  なんかあまり丈瑠から聞かない言葉が出た気がした。 「僕もそうだね。店に来る時間も僕は決まってないし、でもてつやがここにいてくれる安心感は半端なかったよ」  カウンター席のロックを注ぎながら、稜もそういってくれた。 「この3人がこうやって並ぶのも最後か」  一番最初の日にそこに座っていた小野塚さんが、やはり最後を見届けるのも自分だと言って、早い時間から来てくれている。 「一番最初に名前を覚えさせてもらったお客さんですからね」  てつやも水割りを出してグラスを交換した。  誕生日ということもあって、プレゼントを持ってきてくれた人もいて、なんだか本当に申し訳ない気分になってしまう。 「てつやくん!寂しいわ!」  ドアを開けたなり叫んできたのは、『魔ランド』のオーナーママの玄ちゃんだ。 「ママまで来てくれたんすか! 嬉しいです」  カウンターから出て熱い抱擁…そしてほっぺにでっかい口紅をつけてのキッスをくれた。 「あんた、頑張るのよ。中々会えなくなっちゃうけど、もっと大人になったら一回くらい飲みに来てね」 「うん、約束するよ。色んな意味ででっかくなって店に行くから」 「アソコもね」  ママの言葉に丈瑠が 「台無しじゃんよ〜」  と即座に言って、店の中が爆笑に包まれた。  ママからは、なんでかハイブランドのペアマグをもらい 「男でも女でも、大事な人ができた時に使ってちょうだいね」  と言われ、その時も京介が浮かんだ。てつやはもう確信していた。自分は京介にそうなんだろうと。でも京介とこれを使うことはないのかなとも思っていて、複雑な気持ちでそれを受け取る。 「ありがとう、玄ちゃんママ」  時間が11時半になって、閉店時間が近づいてきた。  その頃になって、店に誠一郎と響子が連れ立ってやってくる。 「誠一郎、響子ママも連れてきてくれたんだ」 「どうしても最後にってな」  響子の背中ををやさしく押して、カウンターからでて迎えてくれたてつやの前にだした。 「本当に最後の日が来ちゃったわね。がんばってねてつやくん。これ、私から」  響子ママは少し大きくてごめんなさいね、と言いながらそばの金城から受け取り大手家電メーカーのバッグを渡してくれた。 「え…これ…」 「投資にいいって柏木さんに教わったのよ。普通にも使えるから、もらってやって」  いただいたのは最新のノートパソコン。投資のことは柏木が誠一郎に話していたらしい。 「あ、ありがとうございます」  買おうか迷っていたもので、とても嬉しかった。 「大事にします」 「じゃあ俺からはこれな。これも大事にしてくれ」  と相変わらず笑って渡してくれたのはスーツの入っているであろうバッグ。  10日ほど前に金城に連れられて採寸にいったやつだとわかった。  生地も自分で選ばせてもらって、オーダーのスーツの初体験もしたやつである。 「もちろんだよ、大事にする。卒業式はこれで出るから」  ちょっとデザインが派手かもだけどまあいい。  響子ママと抱擁して、ありがとうと再度お礼をいう。 「てつや、これは僕から」  稜がやってきて、これまた大手家電メーカーの袋を手渡された。 「これは?」 「スマホだよ。もういいかげん替えよ?一番最新いれておいた」  とニコッとして 「あ、契約は自分でやってね」  と付け加えた。 「ありがとう稜!」  稜に抱きついてーありがとうーとお礼を言い続ける。 「次は俺。俺はこれ」  人気メンズメーカーのショッパーを渡され、 「俺の全身コーデで服入れといたよ。ここ辞めても無精すんなよ」  頭をぐりぐりして頬ずりまでされた。 「丈瑠、ありがと」  柏木も小さなバッグを渡してきて 「社会人は腕時計した方がいい。時間は正確にな。まだ学生だけど」  そう言ってRolexをくれた。 「柏木さん…ありがとう。本当にお世話になりました。ウリもしない俺を置いてくれて本当に感謝しかないです」  柏木に握手をして。そして耳元に寄り一言小さな声で 「丈瑠をよろしく」  といって体を離した。 「お前…」  さすがに苦笑して、それ以上何も言えなくなってしまう。  皆に一通り挨拶をされ、あいさつをし、12時5分前になった。  壁際のソファに響子と座っていた誠一郎が立ち上がって、ちょっとお話が…とカウンター前にやってくる。  そしててつやを呼ぶと肩を掴んで 「こいつがお世話になりました。お判りとは存じますが俺の女という、重い免罪符を背負(しょ)って頑張ってきました。これからはただの大学生です。  どうかこいつが20歳になる来年まで1年間。関わらないでやってください。20歳になればこいつは自分で自分のケツがふける年齢になります。ただ今はまだ、18が成人とはいえまだガキのうちです。どうか来年までの1年間。そっとしてやってくださいお願いします」  この誠一郎の言葉は誰もが身に沁みた。  勝手に入ってきたと言えばそれまでだが、ここにいるならまだしもここを出た人間が何かあった時に巻き込まれるのは少し違うとも思える。  店内からは誰ともなく拍手が起こり、それに対して誠一郎とてつやは頭を下げた。 「誠一郎ありがとう。何から何まで…」 「泣くなよ?」  いつもの頭撫でをされてー泣かねえよーと無理に顔を綻ばせる。 「それじゃあ時間だね。みんなでアーチでも作って見送ろうか」  お客の誰かが言い出して、口々に懐かしいなーと言いながら店のドアまで並び始めた。 「やめてくださいよもう!恥ずかしい」  笑っててつやは、はい解散してください〜と言ってみるが、ドアまでの道は無くならなかった。  てつやはそばの稜に最後に抱きつき 「本当にありがとう」 「てつやに会えないなら、明日僕も店やめようかな」   と体を離して笑う。 「勘弁してくれ」  と後ろで柏木がぼやいた。  それに笑って、次は丈瑠に抱きつき 「ありがとう。色々教わった」  色々含んだ言葉を言って、体を離す。 「俺も学ばせてもらったよ。色気の出し方とか」 「じゃあもっと出せよ」  とは柏木。さっきから後ろでの柏木のツッコミが冴え渡っている。  次に柏木に抱きついて 「ありがとうございました。投資頑張ってみるよ。それと、丈瑠の色気知ってるのは柏木さんだけでしょ」  と言って離れた。 「さっきからお前なんなんだよ」  と苦笑いで、肩をグーパンチする。それに笑って。てつやは誠一郎と向き合う。 「誠一郎…」  誠一郎の前に立って、てつやは深く頭を下げた。 「ほんとに…本当にお世話になりました。誠一郎がいなかったら、俺はここで身を持ち崩していたかもしれない。本当にありがとう」 「そんなことねえだろ。お前には仲間がいるんだろ?かーさん達もいるんだ。守れる男になれよ」 「うん…笑って…生きられる男になるよ」 「んっ」  誠一郎はてつやを引き寄せ抱きしめた。 「頑張れよ。前も言ったがみてるから」 「うん。うん」  大きな胸だった。こんなふうにはなれないだろうけどでも、精神的には大きな胸の代わりにはなれる。  こんな風に安心できる胸にならないといけない。  そんな誠一郎の胸にいたら、いつまでも帰れなくなりそうで、てつやは無理に自分を離した。  そして、誠一郎や他のスタッフに 「じゃあ俺行くね。本当にありがとうございました」  と頭を下げ、そして店に向かっても、残ってくれたお客さんに 「ありがとうございました」  と頭を下げた。  頑張ってね、頑張れよ。色々な声を受けて、てつやはみんなが作ってくれた花道を通ってゆく。  泣いちゃだめだ。もう泣かない。  無理に笑っているのが見え見えでも、泣かないと決めたんだ。  ドアまで来てしまった。 そこで店内を振り返ると、ここからの景色は初めてだった。 「柏木さん、俺ここから出てもいいの?」  なんだかいけない気がして聞いてしまう。 「当たり前だろ。今日のお前を裏からなんて出せるかよ。お前は裏から入ってきて店を出ていく通りすがりだと思うことにするわ」  柏木が鼻を啜っていて、丈瑠がその背に手を添えた。 「上手いこと言えって言ってないよ」  ついてつやも泣きそうになり、必死で堪える。 「じゃあ、みんな。一年後に構ってくれ。じゃあね」  そう言って大荷物の家出少年のような格好でてつやはドアを開け、外に出た。  ドアを開けたまま中を見て、もう一度深く頭を下げゆっくりとドアを閉めていった。  もう戻れないんだ。と思った瞬間目頭が熱くなってしまったが。 「泣かないっ!」 と自分に言い聞かせるように言葉に出して、またドアに一礼すると、帰ろうと振り向いた瞬間 「おかえりてつや」 「おつー」 「おかえり」  と、まっさん、銀次、京介が立っていた。  その瞬間に、てつやの頬に涙が溢れ出てしまった。 「あれ?たった今『泣かないっ!』って啖呵きってなかったか?ん?」  銀次がさりげなく右手の荷物を持ってくれる。 「言ってたよな、信憑性ない決意だぜ」  左手の荷物を京介が持ってくれた。  まっさんが正面に立って 「おかえり」  と改めて言ってくれて、てつやは少し声を出して泣いた。  3人は、まだてつやが自分たちに泣いてくれることにちょっと安堵する。 「ただいま…」  小さい声でそう言って、3人に肩を抱かれて歩き出すが、急にてつやが立ち止まり 「お前らとは、一生離れてやんねーからな!」  と、逆に肩を抱き返して、3人に一気に飛びついた。  望むところだと三人三様に言われ、再び歩き出す。  まっさんは、てつやの肩にかかっていたバッグを持ってやって、 「これ、戻り記念」  と一枚の紙をてつやに渡した。 「なにこれ」  と、折ってある紙を広げてみると 『来年5月GW! ロードゲーム開催決定!詳細はこちら!』の文字。まっさんがネットの記事をプリントしてきたらしい。 「おおおおおおおお!まじか!でるぞ!出るよな!」 「勿論だぜ」 「俺免許とったぜ、支援できるから」  京介もそう言って、4人で参加できることになった。  こいつらは、感傷にすら浸らせてくれない…いい奴ら。  泣き笑いの中てつやはそう感じて、仲間を掴んだ手をぎゅと握りしめた。 「お前ら一生付きまとうーーーー」  大きな声で笑って、4人は大きな道路を渡っていった。  渡り切った時てつやが振り向いて、感慨深そうに景色を眺め、他の3人もそばに立った。  何かを言おうと思っても言葉が出てこない。  てつやはそこでまた頭を深く下げて10数秒動かなかったが、頭を上げた時にはすっきりした顔で笑っていた。 「じゃ、俺んちいく?」  当たり前だよ、騒ごうぜ などと言い合って、荷物も多いことからタクシーで帰ることになった。  タクシーに乗ってつい先日見た車窓の景色を思い出した。あの時は感傷に浸っていたなとも思い出したが、でももう前しか見ないことにした。  快く送り出してくれた人たちのためと、自分の仲間と一緒に、これからも楽しく生きていくために。

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