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第27話 〜発作〜
朝まで丈瑠と稜に拘束されていたてつやは、そのまま大学 へ行こうかとも思ったが、いかんせん酒臭かった。自分で匂うのだから、他の人にはもっと臭うだろうなと自主休講を決めてタクシーで戻ってきた。
まあ、必修ではない講義だったのは幸いだったな…と帰ってからベッドへ倒れて10時間。目覚めたらすでに夕方の4時になっていた。
「あったまいてえ〜」
ガンガンと鳴るような痛みに顔を歪め、不思議と吐き気はしない質 でよかったな…などと思いながら、冷蔵庫の水1ℓをラッパ飲みする。
そのままペットボトルを持って、ちゃぶ台につきテレビを点けるが頭に響いてだめだ…と速攻消す。
床に寝そべってぼんやりと昨日のことを思い起こしていた。
檜風呂や、富士山が見える窓。だだっ広い畳の部屋。どれをとっても大らかな誠一郎っぽいなとちょっと口の端が上がってしまう。
でかい男だなと思う。ああいう人になりたいなという憧れを持たせてくれたのには本当に感謝だ。
『父親』がいない自分には、大人の男性がわからなかった。大人の男性といえば変態ばかりで信用できるはずもなかったし、そんなもんかと思い込んでいたのも少し反省した。考えてみたら世の中はまともな大人で回っているのだから、あんな変態ばかりじゃないはずなのだ。
「ほんと勉強させてもらったなぁ…」
言葉に出して呟くと、不意に携帯がなった。
「あれ、京介だ。はい、俺」
『あ、京介だけど、お前今どこにいる?』
「いま、自分家にいるぞ。なんで?」
『いや、昨夜一昨日帰ってなかったみたいだったから』
「ん?ああ、昨夜?もしかしてうちに来たか?悪かったな。俺、辞めるじゃん?店。だからって誠一郎が別荘に招待してくれたんだよ。金曜の夜中から昨日の夜中まで24時間拘束でさ」
てつやは笑ってそう言っているが、電話の向こうの京介は少し唇を噛み締めた。
『そっか。楽しかったか?』
「もう最高だったよ。あいつの別荘すんげー豪華でさ。なんでもでかいのよ。間取りもでかいし、部屋もでかいんだ。そうそう布団!布団なんかさ。多分横幅250cmくらいあったぜ。笑っちゃうだろ。俺と誠一郎が一緒に寝たって十分余ってた」
何の気なしに面白い話を聞かせているてつやだったが、『一緒に寝た』がまずい言葉と気づいていないようだ。
『一緒に…?』
その時に初めて、てつやはまずいこと言ったと気づく。
「そうそう一緒に寝たけど寝ただけだぞ!あんな広いのに1人なんてごめんだったから頼んだんだよ。やなこと考えるなよ?」
笑ってそう言って、てつやは誤魔化せたかなとひやひや。実際布団では何もしてないから嘘はいってない。
電話の向こうで、少し息が漏れた音がした。ホッとしたのか京介の眉間の皺は緩んだ。
『俺今学校帰りなんだけど。ちょっと寄っていいかな』
「お、そうなんだ?いいぜ。ちょっと酒臭いかもしれないけど許せ。シャワーは浴びとくわ」
『わかった。じゃああと20分くらいでつく。なんか欲しいもんあるか?』
「あ〜じゃあ悪いけど、ポカリのでっかいの頼んでいいか。早いとこ酒抜かんと」
笑ってそういうてつやに京介も笑って、
『わかった』
と電話を切った。
てつやはー風呂風呂〜ーと歌って浴室に入り、服を脱いでシャワーを出す。
熱めのシャワーが心地いい。
一昨日の夜のシャワーを浴びながらの行為が蘇ってきた。
「でかかったな…」
触った時と入ってきた時の感触を思い出したら、少し勃ってくる。
ー俺、チョロくねえかーと苦笑して、そこに手を当て擦り上げた。
「あ…」
思わず声まで漏らしてしまい、ちょっと恥ずかしくなったが、その声でより硬くなった竿を擦り上げ、小さくではあるが声を漏らしながら自慰をした。
避けそうなほどの挿入感と初めての時以来の圧迫感を思い出し、手の動きも早まる。
それに、柏木が弄ってきたあの変な感覚になる場所。あれはなんだったのか。
あの猛烈に射精感を煽る感覚は抗い難くて、そして気持ちが良かった。
色々思い出して、手の中のものははち切れそうになり、
「あっあっあぁ…」
自然と漏れる声はもう気にせずに、てつやはイキついた。
「はぁ…」
手についた精をシャワーで流し、ちょっと照れてしまう。
「何やってんだ俺」
そう呟いて、体を洗う用のタオルにボディシャンプーを泡立てて、身体を洗った。
シャワーから出てスエットを身につけた頃、ドアがノックされ
「開いてるぞー」
と声をかけると
「ういす」
と京介が入ってくる。
「なんか久しぶりだよな〜」
入ってきた京介は一瞬目を疑う。
タオルで髪を拭きながらコップを用意しているてつやは、いつもと違うてつやだった。
何がどう…と言われると説明できない何かを纏っていて、下半身の反応を抑えるのに少しだけ努力が要った。
まあ、それも仕方のないことで、一晩のうちにセックス上級者二人に抱かれてきたてつやが、それでなくても色気がどうのと言われる中、普通であるはずがない。しかもさっき一人でも致したし…。
これが無意識なのがまずいのだ。
「だな。いつ振りだ」
京介はポカリとハーゲンダッツを買ってきてくれて、それをちゃぶ台に乗せてコートを脱いだ。
「おお!神か!アイスは二日酔いにいいからなー。って二日酔いってか今朝迄飲んでた酔いか」
アイスが二日酔いにいいかどうかは知らないが、うははと笑って、食っていい?とバニラを見せる。
「うん、食おうぜ」
台所で手を洗ってきた京介も、座ってハーゲンダッツを手に取った。
徹夜はまるで普通だ。気にしないのが一番だ…。
「朝までって、お前今日大学(学校)は?」
「あの状態じゃ無理だった」
苦笑してアイスを口にいれて
「でもあれだぞ。今日は必修じゃなかったからな。だから休んだんだからな」
必死に言い訳をするてつやに笑って
「何俺に言い訳してるんだよ。別にいいよそれは」
そういわれて、それもそっか…とアイスを削る。
「楽しかったみたいじゃん別荘」
「うん、めっちゃ楽しかったぜ。結局うちの店の人ほぼ来てたしさ。店以外で会うの初めてだったから、ああ、あの二人以外な、結構素も知れておもしろかった」
店の子はどうでもいいんだが、気になるのは誠一郎だ。
京介は最近の自分がおかしいのは気づいているが、なぜかどうにもできなくて困っているのも事実だった。
「店の奴らもさ、朝起きたら急に湧いててさ。びっくりしたわ。あいつら夜通しかけて別荘きてんだぜ、頭おかしい」
朝に沸いていた?ということは夜12時から朝までは誠一郎っていう人と二人だけ…
「本当に何もなかったのか〜?」
冗談風に聞いてもみるが、
「ないない。言っただろ?あの人無類の女好きだぜ?こんな痩せた男眼中にねえよ」
多少目が泳いだのは気のせいか…どこまでも疑う自分も情けないが、モヤモヤするのは治らない。
「で、今日は何?なんかあってきたんだろ?おもろいことか?」
一気に口に入れてキーンってなりながら、京介の様子を見るとなんだか深刻そうな顔をしている。
「どうした?なんかあったんか?」
アイスを持ったまま顔を覗き込むが、ーん?いや実は何もないーと言われ
「なんだよー」
と、急いだシャワーの時間返せと笑ってもう一口アイスを口に入れた瞬間、京介に抱きすくめられた。
「ん?」
腕ごと抱きしめられて、アイスが京介の服を汚しそうだったので
「ちょと待てちょと待て、アイス溢れるから」
腕を上から抜いて、アイスをちゃぶ台に置くと、そのまま背中に手を回す。
「どうしたぁ?いじめられたか?」
笑いながら冗談のように言って抱きしめてみるが、返事は
「うん」
で、まじかー?とぎゅってしてやる。
「いじめた奴言ってみ?俺がとっちめてやるから」
「マジで?」
「おう、マジマジ」
「てつや」
「俺かー」
困ったなと呟いて、
「じゃあ俺を殴れば元気でる?」
なんだか訳のわからない会話になってきた。
京介は身体を離しててつやの顔を間近で見つめ、それに応じるようにてつやは自分の頭をポカっとたたいて
「これでいい?」
とニカッと笑った。
「よくねえ…」
京介はそう呟いて、不意に唇を重ねてきた。
なんかよくわからないが、なんだか自分を求めているような京介に実は軽口で応戦していたのだが、直接攻撃を受けて一瞬戸惑った。が、そこで気づいてしまう。
京介にこんなことされても嫌じゃない…
思い起こせば、なにかと京介を思い浮かべてた気がする。丈瑠に初めてキスされた時の身長差の時もそうだったが、何かあるごとに真っ先に浮かぶのは京介の顔だった。
「ん…ちゅ…んん…」
京介のキスは美味しい。アイスが美味しいわけではなく、非常に上手だ。優しくて労わるように舌が蠢いてくる。
なんだかこのまま流されてもいい気持ちにさえなってしまうが、京介としてしまったら…他の仲間になんて言ったらいいか…言わなくても自分が罪悪感に苛まれる…『罪悪感』…なんでだ…?まだこだわっているのか…いや違う。京介とそんなことをしたら仲間に見捨てられるかもしれない…それは一番の恐怖だった。
「はいおしまい〜」
京介の胸を押して、身体を離すとそう言ってにっこりして京介の手にアイスを持たせる。
「内緒にしといてやるから…もうおいたしちゃダメだぞ」
唇に指を当てて、再びアイスに専念し始めるてつやをなんともいえない顔で京介は見つめた。
やってしまった…心が吹き出してしまった。
でも仕方ないとも思ってしまう。
自分の知らないところで、こんな風に 『変わる』てつやが作られているのだ。
店を辞めて自分たちの所に戻ってくるのももう少しだが、それまでに変えられてしまったらどうしよう…そんな漠然とした不安を京介は京介で持っているのだ。
アイスを持ってじっと自分を見ているようで焦点が定まっていない京介を見て、てつやはまたアイスを置いて京介に向き合った。
ついでに京介のアイスもちゃぶ台に置き、膝の上に落ちたその手を両手で握ってやる。
「俺は変わらないから大丈夫だぞ?今はちょっと体質的になんか振りまいて心配かけてるけど、そんなんすぐに消せる。お前も仲間なんだから俺を信じろよ」
片手を離して、京介の胸に軽くグーパンチ。
「なんかあったら俺が受け止めてやる。いつでも来い」
そしてもう一度ぎゅううっと京介を抱きしめる。
時々てつやはこうやって、見透かしたように安心させる言葉をくれる。
家庭の事情で涙腺の弱かった頃のてつやではなくなってからの傾向だった。これもてつやの成長なのだろう。
仲間と一括りか…と京介はその肩の上で笑った。しかし特別じゃなくたっていい。てつやが変わらず戻ると言ってくれたことが、少し心を落ち着かせてくれた。
「じゃあ、ほい。アイス食おうぜ。溶けちゃうよ」
京介の手にアイスを乗せてやり、自分も溶けかけのアイスを口にする。
「溶けても美味いな」
言いながらわざとスプーンをぐるぐる回すてつやに
「おいおい、それ溶かしてんじゃん。飲む気かよ」
「ワンチャン美味くなるかもしれんし」
「ねーわ」
二人で爆笑する
そんなくだらない会話が出てきたら大丈夫。
これが、のちにてつやに『発作』と言われる京介の謎行動の最初のできごとだった。
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