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第49話 魔王様と勇者様、ずっと一緒に
朝の光が瞼 越しでもわかるのに、体が気だるくて動けない。
昨夜飲みすぎたせいだろうか……ジェイミーは薄く目を開けた。顔が丸窓の方向を見ていたから、日差しが目に痛くて一度きつく瞼を閉じた。
再びゆっくりと瞼を開け、思い通りにならない体を起こそうと腕に力を入れる。その途端。
「いっ……!!」
腰と臀部に、骨の痛みとも筋肉の痛みとも判別がつかない痛みが走り、力が抜けた。
(痛い……なんだ、これ、なんでこんなことに)
ふんわふんわふんわ……頭の隅に肌色が浮かぶ。
それから、ルナトゥスの揺れる上半身と髪。
それから、繋がった下半身とぱちぱち響く肌がぶつかる音。
「ひ、ヒィィィいいぃ!!」
(お、おれ、きのう、どうていをうしなっ……ちがう、おれはしてない、したのはルナトゥスっ………!)
おぼつかない脳味噌内でおぼつかない言葉を叫ぶ。
そろっと上掛け毛布を捲って体を確認すると、パジャマをきちんと着ていた。
「……夢? じゃない、よな?」
そう言えばルナトゥスはもうベッドにいない。昨夜のことを確認する|術《すべ》は、自分の記憶と体に刻まれた痛みだけ。
とりあえずは体を起こし、ルナトゥスを探しに行こうとジェイミーは考えた。これだけ眩しい光が部屋に差しているのなら、ルナトゥスは起きて朝食の準備をしているのかもしれない。
再び腕に力を入れる。その時、丁度部屋の扉が開いて、足がすらりと長い黒髪の男が姿を現した。
(わ、ルナ、かっこいい)
ぽっ、と頬を桃色に染めるジェイミー。
「ジェイミー」
自分の名を呼んで微笑む男の漆黒の瞳には、ジェイミーへの愛情が溢れ出ている。
ルナトゥスはジェイミーのそばに来て体を起こすのを手伝うと、ジェイミーの隣に腰掛けて、腕で体を支えた。
「体は大丈夫か?」
問われて、やはり昨夜の記憶は間違いではないと知る。
「う、うん……いや、とても痛いよ。ルナ、痛くしないって言ったのに……」
頬を染めつつルナトゥスを上目遣いで睨む。
その途端に尖らせた唇を強く吸われて、ジェイミーはさらに顔を赤くした。
「……すまない。でも、ジェイミー、最中はとても気持ちよさそうにして……ンぐっ」
恥ずかしい言葉を言われそうで、ジェイミーはルナトゥスの口を両手で塞いだ。
「それは言わなくていいから。ともかく早く起きないと姉さんが帰ってきてしまう。ルナ、着替えを手伝って」
「ジェイミーから言ったくせに。……服、出すから待って」
ルナトゥスは気を付けてジェイミーから体を離すと、衣装棚から白いシャツとカーキのパンツを出した。
「さあ、おいで」
「えっ?」
ベッドについていた尻がふわりと持ち上がり、ルナトゥスの膝に抱きかかえられる。
ルナトゥスはジェイミーの背側から長い腕を伸ばし、パジャマのボタンをひとつ、ふたつ、とはずして肩を出させた。
「んっ……」
ルナトゥスの唇が肩に落ち、肩甲骨の形をなぞってくる。
甘い痺れが走り、体が強張った。
だというのにどうやったのか、あっという間にジェイミーは裸にさせられて、パジャマは床に落とされた。
ルナトゥスの手が胸に回る。背にキスを受け続けながら、色が他とは違う尖りを撫でられれば背がしなった。
「や、だめ、ルナ……」
昨夜何度もこすられ、つままれて口に含まれた小さな蕾はもう、少しの刺激でもぷっくりと膨らむ。
下半身に血液が移動する感覚に、これ以上されては自分を保てる自信がなくて、ジェイミーは必死でルナトゥスの手を掴み、いやいや、と首を振った。
「……って、なんだ、これ!」
ルナトゥスの手に視線をやりながら目に入った自分の肌に驚愕する。
至るところ、赤い痣だらけだ。
「ルナ……! お前、こんな痕付けて! ……いたっ……!」
勢い良く背面のルナトゥスにふり返ったせいで、ひねった腰に痛みが走り、ジェイミーは無言でルナトゥスの胸に突っ伏した。
「ジェイミー、大丈夫か」
「大丈夫じゃないよ! ルナはもう俺より体が大きいんだから、手加減してよね!」
半泣きで言われては頷くより他ない。ルナトゥスはジェイミーの腰を撫でてから、用意したシャツを着せて着替えを終えさせた。
「……ありがと。なあ、ルナ。俺、気になってることがあるんだけど……」
「なにかまだ昨夜のことが?」
「ち、違う。そうじゃなくて。あの、お前さ、記憶はずっとあったのか? 小さい時も……?」
もしそうだとしたら、恥ずかしすぎておかしくなりそうだ。
ルナトゥスにはジェイミーの言わんとすることがよくわかった。
ジェイミーは子育てを始める前、自分が顔だけの男だと周囲から言われていたことをわかっているし、ルナトゥスと関わる中で多々失敗もしてきた。そんな自分が明らかに年上の、魔王だった男に父親ぶっていたことが恥ずかしいのだ。ルナトゥスが幼いからこそ出来たことも多くあったのだろう。
「……いいや。ほとんどなかった。時々不意に、他人事のように、夢のように記憶が頭に浮かぶことはあったが、だいたいにおいては幸せの中で過去は霧の奥に隠れていて……幸せだったから、忘れていられたんだ。俺は間違いなく、幼い人間のルナトゥスとしてジェイミーに育てられた」
嘘じゃない。そう思っている。
「すっかり思い出したのは姉さんのことがあって魔力が全回復してからだ。それくらいに……魔王であった過去は全て消えても惜しくないくらい、俺は幸せだった。ジェイミーがいつもそばにいてくれたから、生まれ変われた。もう何度も伝えたはずだ」
「うん……わかった。でも」
ジェイミーが頷き、言葉を続けようとすると、
「でも、ジェイミー」
ルナトゥスも口を開いた。
ルナトゥスはふっ、と口元を緩め、先に言葉を発する。
「魔王だった頃の罪は忘れない。ジェイミーがこの先ずっと、一緒に清めてくれるから」
その言葉で、ジェイミーは花が開くように顔を綻ばせた。
「ああ、一生、一緒にな!」
そして二人で笑顔を重ね、唇も重ねて、何度目かの永遠の愛を誓うのだった。
【完】
BL色の少ないつたないファンタジーをお読みくださりありがとうございました(*^^*)
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