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第5話

〇 「あのさ」  元々言いたいことはあった。 容姿が整っているのは初めて見た時から分かっていた。だけど、それをわざわざ隠すような生りをしているのは何故か。 服だって本来のスタイルより随分ゆったりしている物を選ぶし、髪が一番の問題点でもあった。 彼・一季の髪の色は木実のように真っ黒ではなく、どちらかと言うと天然で茶色い感じ。光に透けるとキラキラと綺麗に輝くのがとても綺麗だと思ったほどだ。 「一季君。そろそろ髪とか切りに行こうか」 「お金かかるので大丈夫です」 「でもさ、その髪型。明らかに見にくいよね?」 「だったら縛るので大丈夫です」 「……」 「木実さん。俺のことはいいからご自分のことに金を使ってくださいよ」 「……たとえば?」 「ぇっ……。ぁっ……と……いい服を買うとか、靴を買うとか……。腕時計でもいいし、何なら車でも」 「まったくお前は無茶ばかり言うよね」 「……」 「俺はそこまで稼いでないから、車なんてとても手に入れれる分際じゃございません。日々努力節制して家賃を払うのが精一杯な身なんですよ?」 「そ……れは…………」  まるで分かってますとでも言いたいような顔をする相手に畳みかける。 「今は俺のことを言ってるんじゃないでしょ。お前のそのヌーボーとしている頭のことを言ってるんだけど」 「……」 「もし、俺とこれからも一緒にいたいと思うなら、髪の毛もちゃんと前が見えるくらいにはサッパリとして欲しい」 「…………イエス、マスター……」  本当は切りたくないのかな……とも思ったけど、顔の半分を垂らした髪で隠しているような面持ちはいただけなかったのでお願いする。 いい返事が聞けたので安く上がる散髪屋に連れて行くと感嘆の声が上がってしまった。 「ぇ……あのっ……」 「モデルじゃありませんからっ」 「ぁっ……すみませんっ、つい……」  店の片隅でそんな会話を聞き、木実は思わず口端を緩めてしまった。 「だから言ったでしょ?」 「何が?」 「言われるから」 「ん?」 「何かされてました? とか、モデルさんですか? とか。俺、そういうの慣れてないから言われても困るんですよ」 「美しさって、時に罪なんだな」 「またそんなことを言う。いいですか? 俺はわざと顔半分隠してるんです。いちいち説明したりするの面倒でしょ?」 「うん。でももう髪型整ったから」 「……」 「一季は一目見た時から綺麗だった。服汚くても綺麗に見えるのってなかなかないと思うし、逸材なんじゃない?」 「冗談っ。俺は……あんまり目立ちたくないんです」 「それも理由がある?」 「……別に」 「そう……」  本当は本当に目立ちたくないんだと察する。  洋服もそろえてもらったし髪までカットしてもらい、すっかり一般人なった一季は散髪屋の帰りに驚き発言をした。 「俺、そろそろ街の探索とかしたいと思います」 「ぁ、うん。そうだね。そろそろ近くを歩くのもいいかもしれな」 「じゃなくて。働き口、探そうと思います」 「ぉ、おーーー!」 「何ですか、その驚きようは」 「何、その心境の変化」 「いや。俺みたいなのにここまで良くしてくれたってのに、俺ちっとも一人前じゃないし」 「別に俺は無理強いはしないよ。お前は家のことちゃんとやってくれてるし、飯旨いし。帰ってから食事作るのって案外面倒だから助かってるんだ。それに洗濯とか掃除とかもやってもらってるんだから、凄い助かってる」 「俺……あんまりマトモに働いたことないから少しづつだと思うけど、とりあえず動いてみようかなと」 「分かった」  一季がやる気になった。それはいいことなのか否か。今は分からないけど、好きにすればいいと思った。彼が外出するのを考えると、どうしても鍵を渡しておかないといけない事態になる。なので入居時ふたつ貰った鍵のひとつを一季に渡した。 「ぇ、いいの?」 「ないと外出出来ないだろ? 今さっき気づいた。ごめん」 「そんなのいいけど、俺にこれ渡していいの?」 「不便だろうし、鍵開けたままだともっと物騒だし」  グイッと押し付けると申し訳なさそうに、でも嬉しそうに一季はそれを受け取った。 翌日から、食材の調達も彼に任せることにしてお財布を渡す。 「こんなに信用しちゃっていいの?」 「必要最低限しか入ってないから無駄遣いしないように」 「分かった」  しかしここからが問題で、木実は彼に散髪してもらったことを「どうなの……?」と思うようになったのだった。 五話終わり

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