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第1話
「君にとって俺は何?」
そんなことを言われても答えられるわけもなく、黙ってしまうしかない。
答えてしまったら全てが終わってしまうことはわかっているのだから。
「……答えないなんてずるいよ」
「ごめん」
「謝れば良いって思ってるだろ」
「そんなこと思ってない」
「……だったら……」
続く言葉は彼の口からは出てこない。
唇を噛み締め、僕を睨み付けただ黙っている。
僕達の関係性に名前をつけてしまえば終わってしまう。それは嫌だ、僕は彼を手離したくなどない。このまま永遠に、そう望んでいるのに。
「……意気地無し」
「そうかもね」
「わかってるならどうして……」
「わかってるから、言えないんだ」
たった一言、君に告げてしまえば君は頷いてくれるだろう。受け入れてくれるだろ。
でも、その時から僕は君を失うかも知れない恐怖に苛まれることになる。
終わりのないものなどない、いつかは終わるのであれば僕は言葉にはしない。
「一緒に来い、ぐらい言えないの……?」
「言わないよ」
「……意気地無し」
「うん」
「臆病者」
「何とでも言って」
君に恨まれて、心の奥底まで深い深い傷を残せたら良いのに。君だってそうしてくれないくせに僕だけを責めるんだ。
「……俺はお前と一緒にいきたかった」
「……うん」
「……連れていってよ」
「駄目だよ、それは出来ないって」
伸ばされた手は宙で空を切り、何も掴むことはない。もう触れることすら出来ないのか。
それを理解した途端、彼の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちてきた。
キラキラと夕陽を浴びて、それは宝石のように輝き、そして地面に落ちて弾けた。
「本当、ずるい。最期まで言わないんだね」
「言わないよ、絶対」
絶対に、言わない。言ってしまえば君は満足だろうけれど、僕はどうしたら良いかわからなくなるじゃないか。
失ってから気付いたんだから、この悲しみに耐えられるわけがないんだよ。
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