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第5話

寒いなぁ……なんて思っていると後ろから何か重みを感じた。 「……何してるの」 「えぇー? 寒いから」 ずしっとした重みとは反して薄い身体が俺を後ろから抱き締めている。対して温かさを感じないが、少しずつ春生の体温と同じくらいになってくるから不思議と心地良さは感じてしまう。 「寒いと抱きつくの?」 「温くない?」 「んー……あんまり」 「えぇー?」 にこにこと笑っている春生は可愛い。 ご機嫌なのか、今日は特ににこにこしている気もするし、頭をぐりぐりと押しつけてくるから相当機嫌が良さそうだ。あんまりすりすりされると色々と困るんだけれど、今それを言ったところで多分聞かない。 それだけはわかる。 「島ちゃんの匂いする」 「そりゃ俺だからね」 「落ち着く」 セットもメイクも落ちるって、なんて思いながらも春生からの攻撃を甘んじて受けてしまう。 大きい犬だよなぁ……なんてしみじみと思うけれど、この大きい犬がここまで懐いてくれるまで地味に大変だった気もする。 この男、ほわほわしているように見えて案外人見知りかつ真面目で、深く物事を考えていないように見えて考えている不思議な生き物だ。 懐いてからはマイナスイオンなのか、よくわからないものが出ていて良い感じに気が抜けるし、頭を撫でれば嬉しそうに笑ってくれるから悪い気は全くしない。 「甘えるなら今じゃなくない?」 「甘えてないけど?」 「そっか」 これが甘えていないのなら何を甘えていると言うのか。俺的には甘えられている気がしていたのに春生は違うと言う。 本当に不思議で、独特の世界を生きている。 「俺に甘えてほしい感じ?」 「まぁ……今じゃないけど」 「ほぅ、それは叶えないといけませんね」 「だから今じゃなくてね」 「それくらい俺もわかるって」 抱きついたままそれを言うのか…… でも春生が慣れた相手にはスキンシップはするし、距離が近くなりがちなのもわかっている。何度かそれでもやもやしたことはあるし、ちょっと色々してしまったこともある。 その時はその時で……うん、保護者に怒られた。 特にどこぞの鈴木には冷たい目で見られたことは記憶に新しい。 「甘えるなら家で、でしょ」 「わかってるじゃん」 「でも島ちゃん成分が足りないから補充」 そう言って春生はまた頭をぐりぐりと押しつけてくる。これは多分襟元とかその辺にあがちゃんの落ちたメイクとかついてるだろうな、なんて思ったけれど好きにさせてしまう俺も俺だ。 まぁ……惚れた弱みと言うやつにしておいてほしい。 「あー……染み渡る」 あとでもっと染み渡らせてあげますよ、なんて口にはしないで、とりあえず春生の頭をぽんぽんしておいた。

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