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第4話

「おーりちゃん」 「ん?」 「なーんでもない」 呼べばすぐに顔を上げてくれて俺を見てくれる。本に向き合っていても、それはいつも一緒だ。 「なんだよ、それ」 「えー? 呼びたかっただけ!」 呼びたかっただけなのは本当だ。 こっち向いてよ、おりちゃん。 そんな面倒くさいことを考えて呼んじゃったのに、おりちゃんは困ったように笑うだけだ。 優しいおりちゃん。そんなおりちゃんが俺は大好きだ。 「おりちゃん」 「んー?」 「すっげぇ好き」 「……は?」 「好きすぎてやばい」 「酔ってる?」 「飲んでないし」 酔ってるわけない。そもそも飲むつもりもない。だって久しぶりにおりちゃんが家にいて、しかもゆっくりしているんだ。酔ってる時間が勿体ない。 「おりちゃん」 「だから、何」 「好き、大好き」 「わ、わかったから」 「嫌だ、まだ言い足りない」 久しぶりに会ったからなのか、好きが溢れて止まらない。こんなこと初めてだし、自分がこんなに女々しくて面倒くさいタイプだとは思わなかった。 どれだけ好きと言っても言い足りない。 愛してるって言葉は何故か嘘っぽく聞こえてしまうし、おりちゃんに好きと伝えるために抱いたらきっと一晩では済まない。それこそずっとずっと一緒にいてくれても、伝わり切らないんじゃないかってくらい好きで好きで仕方がない。 「おりちゃん、俺さ」 「わかった! わかったから!」 「むぐっ!」 俺がまたおりちゃんに『好き』って伝えようとしたら、無理矢理口を塞がれた。それも少女漫画とかでよくありそうな、唇で、だ。 おりちゃんがこんな大胆なことをするとは思っていなかったけれど、唇からじんわりとおりちゃんの体温が伝わってきて、自然と伝えたかった言葉が溶けていくような気がする。 「ふーくんは一度スイッチ入ると止まらないよね」 「え? そうなの?」 「自覚無し……まぁ、別に構わないけど」 自分では気づかなかったことをおりちゃんが気づいてくれた。その事実が嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。間違いなく今の俺は情けない顔をしていると思う。こんな顔、おりちゃんにしか見せられない。 「おりちゃん、俺のことよく見てるね」 「そりゃ……まぁ……うん」 「何?」 「いや、一応ふーくんは、その……」 「その?」 「あー! もう! ふーくんは俺の彼氏でしょ! これで満足?」 「えぇー? どうだろ」 おりちゃんは色白だから赤くなるとすぐわかる。今も頬を赤らめて、半ばヤケになって嬉しいことを言ってくれた。 ああ、凄く好きだなぁ……なんて再認識。 この人に出会えて良かった、出会うきっかけがあって良かった。心からそう思う。 「ねぇ、おりちゃん?」 「何」 「キスしていい?」 「は?」 「したい、しかもめちゃくちゃ濃厚なの」 「ばっ……! つか、そう言うのは、言わずに……しろって……」 頬を赤らめたまま、ぷいっとそっぽむいて唇を尖らせるおりちゃんはとても可愛い。付き合うようになってからそんな些細な仕草さえも可愛く思えるし、愛おしく思えてしまうから不思議だ。 「では、遠慮なく」 立ち上がって、おりちゃんの頬に手を優しく添えれば心臓が高鳴る。別にキスなんて初めてではないのに、おりちゃんに触れる時はこうなってしまう。俺は本当にこの人に恋をしているんだな、って自覚して、もっともっと触れたくなる。 「……おりちゃん、大好き」 そう囁いて、おりちゃんの唇に自分の唇を重ねれば、今にも蕩けてしまいそうなほど気持ちが良かった。

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