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おまけのようなエピローグ 3
秀一は藍時をベッドに寝かせると、自身はその上に覆い被さるや否や、貪るようなキスを開始した。
「んっ……秀……いち、さ……んぁ……んんぅ……」
よほど待ちきれなかったのか、それともこれが彼のやり方なのか、どちらにせよ激しいことに変わりはない。ともすれば食われそうになるほどのそれに、藍時は息をするのがやっとだった。舌を絡ませ、幾度も角度を変えてこちらを求める様は、骨の髄までしゃぶり尽くす獣のようにも感じられた。
「ふ、ぁ……んっ、んぅ……」
苦しい。なのに気持ちがいい。経験したことのない妙な矛盾に苛まれながら、藍時はヒート時もこうだったのだろうかと、本能に支配されていた当時を思い返そうとした。
「んあぁ……」
すると、ひとしきり味わい尽くされた舌を、甘噛みされながら口の外へと引きずり出された。舌を歯で咥えられたことで、まさか本当に食われるのかと驚き秀一を見ると、向こうはこちらに集中しろと言わんばかりの目を向けていた。どうやら、別のところに意識が向いていたことに気づかれていたようだ。
そんな藍時を嗜めるように、秀一は彼の着ているTシャツを胸の上まで捲し上げると、露わになった二つの突起の一方を指で弾いた。
「ひうっ」
ピリッと痺れるような感覚に、藍時が短い悲鳴を上げる。決して痛いわけではない。しかし声を上げずにはいられないほどの刺激に、雑念はすっかり消えたようだった。秀一は満足そうに笑みを浮かべると、
「ここ、弄られるの好きだよな。お前は」
悪戯好きの少年のように藍時の耳元で囁き、薄紅色に色付く突起を両方とも、指の腹で捏ね始めた。
「あ、ん……そ、んな……んぁ……ちが……んんっ……」
藍時は抑えられない嬌声の合間に否定の言葉を紡ぐものの、その表情はたちまち蕩けそうなほど甘いものへと変化した。その上、うっすらと開く両目がたまらないと言って、秀一を見上げている。
ああ、可愛いなと、秀一は右側の突起を舌で舐め転がした。愛しい我が子には決して見せない、このあられもない番の姿を自分だけが独占しているのかと思うと、妙な優越感を覚えた。
「んぁっ……ん……そ、れ……ぁ……ああんっ……」
片や指で捏ねられ、片や舌で舐められ、休む間もなく性感帯を刺激され、藍時の頭はだんだんと快楽の沼へと沈んでいく。次第に、甘えるような声とともに、藍時は愛撫する相手へ胸を突き出すように、ベッドから背を浮かせていた。
その様子を目にして、ますます愛しくなる相手に秀一は、
「なあ。指で弄られんのと、舌でしゃぶられんの、どっちが好き?」
「そん……んっ……き……聞かない、で……んんっ……」
「どっちも好きか」
「んああっ」
そう言って、すっかり硬くなった突起を甘噛みすると、藍時が仰け反りながら悲鳴のような嬌声を上げた。
少し苛め過ぎただろうかと、秀一は藍時の胸から顔を離すと、続けて彼の顔を覗き込んだ。
「はあ……はあ…………ぅ……ん……」
秀一はゴクリと喉を鳴らした。まだ幼さの残る藍時の顔は瞼をすっかり涙で湿らせており、また形良い唇は酸素を貪るように荒い呼吸を繰り返している。ただそれだけのことだというのに、つい理性が飛びそうになるほど、彼が扇情的に映った。
「たまらないな、お前は……本当に」
大きく上下する平らな胸は艶めかしく、まだなお秀一を誘うようだが、それよりも……と彼は藍時の穿いているスウェットパンツを下着ごと掴むと、一気にその身から引き剥がした。
そうして秀一の前で露わになったのはしなやかな両脚と、つい先日も目にした藍時の中心だった。元々、秀一の目には藍時の頭から爪先に至るまでのすべてが魅力的に映っている。とりわけ、自分とは色も形も大きさも異なる彼の性器は、それがΩであるがゆえなのか、非常に美しくそれでいて蠱惑的に感じていた。
しかし、当の本人からすると、秀一のような雄々しさが微塵もない自分の身体は、見入られたくないようで……
「ぁ……あん、まり……見ない、で……」
と、恥ずかしそうに身体ごと顔を背けた。
まるで亀のようにうつ伏せになる藍時の背中に、秀一は唇を寄せながら、
「どうして? こんなに綺麗なのに」
と言うと、彼は枕に顔を埋めながら頭を振った。
「……そん、なこと……ない……です……だって……傷とか……いっぱい……あって…………き、汚い、から……」
絞り出すように紡ぐその言葉の通り、藍時の身体にはところどころ、痣のような傷があった。陸の暴力から離れたこの一年で怪我自体は治ったものの、色素沈着が起こり痣として残ってしまったものや、切り傷のような細い痕が、藍時の身体を蝕んでいた。
さほど目立つわけではないものの、色素が薄い分目にしやすい。秀一は自分を卑下する藍時に目を細めながら、散らばる傷痕を指でなぞった。
「お前の言う通り、こことか、ここも……あの野郎に刻まれたもんが、あちこちにあるよ」
「……っ」
自分で言ったというのに、わざわざ目にしない背中の傷痕を指摘され、藍時は悲痛な表情を浮かべた。
だが、その後に続いた秀一の言葉は、
「でも、そんなんで萎えるようなら、たとえヒート中であってもオレはお前を泣かすほど抱いたりしないけど?」
と、藍時の顔を茹でた蛸のように赤らめさせるには、充分だった。変わらず、枕に顔を埋めたままではあるものの、その表情ががらりと崩れてしまったのは言うまでもない。
「……っ、い、言い方っ……」
「何、やらしいって? けど、他に言いようがないしなぁ。実際、空になるまでお前に夢中になっていたし」
「い、言わないでっ……もう、それ以上は……っ……っ……恥ずかしいからっ……!」
羞恥のあまり、つい口調が崩れてしまう。しかし藍時は謝らなかった。
対して、耳まで真っ赤にさせている自分の番を、秀一は愛しそうに見つめた。
「なあ、藍時」
「……っ、……は…………は、い……」
名前を呼んでも振り向かない相手の耳元に、秀一は唇を寄せて囁いた。
「愛してる」
「……っ」
思わず、涙が出るほど嬉しくなるその言葉が合図だった。男を受け入れるには充分なほど濡れそぼった藍時の秘部に、指とは比べ物にならない質量が押し込まれた。
「ぅ……あっ……あああっ……!」
「……っ、藍時……大丈夫か?」
やや苦しげな息遣いの秀一が、こちらを心配するように声をかけたが、腰だけを浮かせる藍時の方にはそれに答える余裕がなかった。
苦しい。内臓が胸の方まで一気に押し上がるような感覚に、一瞬呼吸の仕方がわからなくなった。ヒート中は狂うほど欲しくてたまらなかったものが、今や凶器のようにも感じられた。
「悪い……少し、きつかったな……」
秀一は自身を藍時の中に埋めたまま動きを止めた。
(え……? う、嘘……やめちゃう、の?)
自分のせいで止めさせてしまったのかと罪悪感を抱いた藍時は、こちらに構わず動くように腰を振った。
だが、彼の呼吸が落ち着くのを、秀一はあやすように背中を撫でながら待った。
「考えてみれば、ヒート以外でヤッたことなかったもんな……オレ達」
秀一がおもむろに背中を撫でる手で藍時の腰を支えるように固定すると、反対の手を彼の反り立つ性器に回し、緩やかに扱き始めた。
「ん、んぅ……」
「気持ちいいか?」
「……っ、う、ん……」
やがて甘みを帯び始めた呼吸とその声に、秀一はホッと息を吐くと、「少し、動くぞ」と言って、藍時の様子を見ながらゆっくりと抽挿を始めた。
「ん……んんぅ……」
動きが伴い、苦しさが増した。しかし内部を抉られ、侵されていくその行為が、次第に快感として変わっていく。また腸壁の、ある部分を擦られると、一際高い嬌声が藍時の口から上がった。気づけば自ら腰を振り、相手を強く求めていた。
「んぁ……ああっ……はあっ……秀一……さ……ん、はあっ……んっ……ああっ……っ……っ……!!」
「……っ、藍時……!」
そして最後は獣のように、互いを激しく求め合いながら、甘美な夜は更けていった。
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