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第9話
「親の七光りでここに入らせていただきましたが、やはり荷が重いようです。それでも、貴族の矜持だけは捨てられない愚か者ですから、出来ないことにしがみつくより早々に退場して田舎で隠居しようかと。ノーウォルトからすればただのごく潰しに見えるかもしれませんが、それでも私なりに今まで頑張って来たのです。少しくらいご褒美をもらっても罰は当たらないでしょう」
アシェルの言い方ではまるで、ノーウォルト家の所有する田舎の屋敷に引っ越し、ノーウォルト家からそれなりの生活費を貰って、自分は何もせず悠々自適に暮らすと誤解を受けそうなものであるが、アシェルとしては全然かまわない。そんなアシェルの様子に、サイラスは深くため息をついた。
「お前なぁ……」
またそんなこと言って、と思っているのがありありとわかるサイラスの態度に、しかしアシェルは何も言わない。再びペンを取って、先程インクを零してしまった書類を書き直していれば、サイラスはゆっくりと立ち上がった。
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