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第23話

 王妃にも劣らないだろう豪華な刺繍の施された絹をたっぷりと使用したドレスを引きずり、造花や宝石をちりばめた重そうな帽子を被った彼女はアシェルの前で立ち止まると、なぜか深々とため息をついた。 「ずっと帰ってこないから心配したのよ? まったく、女ではないとはいえ、未婚の男が何日も帰ってこないなんて外聞が悪いわ」  それはアシェルの身体を心配しているのか、舞踏会などでヒソヒソされることを心配しているのか。おそらくは後者だろうなと思いながら、アシェルはため息を飲み込んで彼女――メリッサに視線を向けた。 「職場で仕事をしていたのですから外聞が悪くなることはありませんよ。城の官吏や兵士たちという何よりも確かな者達が証人ですから」  それに、どれだけ不便だったとしてもこの本邸に比べれば城の仮眠室の方が何倍も快適だ。父から与えられた屋敷を売るようなことが無ければ、否、あの時に田舎で一生を過ごせるだけの金があれば、本邸に帰ってくることはなかった。

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