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第55話
「さて、ご質問がそれだけなら、どうかこの求婚を受けてください」
「いや、なぜそうなるのでしょう。絶対受けませんよ!」
これ以上ないほどの拒絶をしめし、握られたままの手を取り戻そうと腕を引くのに、どうしてかルイの手から逃れることができずビクビクと震えるばかりだ。
「何がご不満なのでしょう。あなたが懸念することが他にもあるのですか? ならばどうか言ってください」
しゅん、と耳と尻尾を垂れさせてしょげかえる子犬のように目尻を下げたルイに、アシェルはうっ……、と言葉を詰まらせる。兄という生き物は実妹は勿論、年下にも甘くなるものなのだ。
「と、とにかくッ! どれだけ言われようと結婚などしません! 私は何の領地も爵位も持ちませんし、父上からも結婚なんて話は聞いていません! それに私にはちゃんと家が――」
「お兄さまがお買いになったお屋敷でしたら、私が契約無効を申し上げておきましたわよ?」
あれこれと理由を並べ立て、子供のようだと思いつつも叫んで押し通そうとするアシェルを、柔らかで可愛らしい、愛しい愛しい実妹の声が遮った。
今、何と言った――?
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