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第56話

「求婚中に口を挟むなど無粋なことをしてごめんなさいねロランヴィエル公。でも、お兄さまにはちゃんと事実を余すことなくお伝えしておかないと駄々をこねてしまわれるのがわかりましたから、今お伝えさせてくださいな」  信じられないとばかりに目を見開いて固まる兄を前に、フィアナはそれはそれは美しい笑みを見せて、近づいて来た侍女の捧げ持つ盆に手を伸ばした。そこに乗せられていた一枚の紙をアシェルに差し出す。 「これは婚姻許可の旨が書かれたお父さまからの書類ですわ。ちゃんと直筆の署名も入っておりますのよ? ここに〝ルイ・フォン・ロランヴィエル公から申し込まれた三男アシェル・リィ・ノーウォルトとの婚姻を、ハンス・クリスタ・ノーウォルトが認めるものとする〟と書いてありますでしょう?」  差し出されたそれは正式な書類であることを示すノーウォルトの家紋が描かれており、確かに少し震えたものではあるが父の直筆で署名され、更には署名の横に父が使う家紋の印が押されていた。何度見ても変わらないそれに、とうとうモノクルがおかしくなったのかと外した瞬間、ルイはクスリと笑い、フィアナは深々とため息をついた。

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