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第57話

「往生際が悪いですわよ、お兄さま。そもそも偽造されたものや正式でないものを王妃たる私が持つはずもございませんわ。お兄さまがお買いになったお屋敷はのどかな場所ですけれど、流石にロランヴィエル公とお住みになるには少々狭いかと思いまして、この書類が届いた時に私の方で契約無効をお願いいたしましたの。契約無効申し立て可能期間の間で助かりましたわ。ちゃんと返金もいただきましたから、後でお兄さまにお返しいたしますわね」  そもそも、言葉には出していないものの足も目も悪くなり、誰かの助けが必須となった兄をフィアナは王都から出すつもりはこれっぽっちも無いのだ。アシェルが本邸から離れるために屋敷を探していることは早々に察知しており、どうやって阻止しようかと悩んでいたフィアナにとって、ルイの申し出は渡りに船だ。良い理由ができたと嬉々として屋敷の購入を無にしてみせた。  本邸から離れるのは良い。フィアナとて逃げたのだ。兄ひとりだけ逃げるななどとは口が裂けても言えない。だが、目の届く範囲に居てほしいと願うのはフィアナの我儘だが、どうか愚かな妹を許してほしいと願う。

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