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第69話

 やってしまった、と眉根を寄せたアシェルに最初はキョトンとしていたルイであったが、すぐに理解してクスリと笑う。 「この程度なら周りには聞こえていないでしょうし、仮に聞こえていたとしても王妃様はあなたの妹君であることに変わりはありませんから誰も気にしないでしょう。それに、もう私とあなたは結婚するのですから公爵だとか侯爵だとか気にせず、普通に話してください。私のこれは癖みたいなものですが、あなたは違うでしょう?」  身分に捕らわれず、自然にして欲しい。もう他人ですらなくなるのだから。そんなことをサラリと告げられてアシェルは思わず反応に遅れた。そしてその一瞬の遅れがルイにとっての返答となり、彼はニコニコと嬉しそうに笑っている。 「聞いた限り、あなたには今日のすべてが突然のことでお疲れでしょうし、できるだけ早めに切り上げようと思っていますが何かあったら遠慮なく教えてくださいね。陛下と王妃殿下にお願いして、休める部屋を用意していただいていますし、ロランヴィエルの主治医も連れてきていますから」  侯爵家たるノーウォルトでも主治医は専属ではなく、民間人や他の貴族も診察している。そのため、気持ちとしてはノーウォルトの屋敷に滞在して衰弱していく父に何かあった時にはすぐに診てもらえるようにしたいのだが、現実としては不可能だ。だが、ルイは何でもないように主治医が隣室に待機していると言う。つまり、彼の言う主治医はロランヴィエルの屋敷に住み込みで従事する専属の医者なのだろう。噂には聞いていたが、その桁違いの財力にほんの少し眩暈がして眉間に指をあてた。

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