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第82話

「あなたのお部屋の隣が私の部屋になります。私の部屋も、書斎も、遠慮なく入って来てくださいね。あなたが入ってはいけない部屋など、この屋敷にはありません。客間もそれなりにありますから、客人を呼ぶのも自由ですよ」  ゆっくりと歩きながら主要な部屋のみ案内したルイは、アシェルの部屋だと言ったそこに入った。部屋の中央付近に置かれている柔らかなソファの上に降ろされ、アシェルはようやくホッと息をつく。 「今日は随分とお疲れになったでしょう。明日は私も休みですから、話しは明日にして今日はゆっくりしてください」  小さなノックの音が耳に届き、盆を持った執事が静かに近づいてくる。アシェルの隣に腰かけたルイがカップを握らせた。 「ホットミルクです。身体が温まりますよ」  いらない、と現状に納得していないのならば最後の抵抗くらいはすべきなのだろうが、ルイの言う通り今日はいろんなことが起こりすぎて酷く疲れてしまった。考えなければならないことは山ほどあるはずなのだが、どうにも億劫だ。それに、握らされたホットミルクが手のひらに温かくて、意地をはる気にもなれない。 〝アシェル、ほら、お母さま特製のホットミルクよ。これを飲んで一緒に寝ましょうね〟  ひと口飲めば懐かしい声が聞こえた気がして、思わずふわりと口元が緩む。ここは慣れ親しんだノーウォルトではないはずなのに、どうしてかアシェルの身体からはゆっくりと力が抜けていき、瞼は重く閉じようとしている。コクリ、コクリとホットミルクを口にしていれば、グラグラと揺れる身体をもう支えることすらできなくて、アシェルはいつのまにか隣にある逞しい胸に身を預けていた。

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