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第86話

「先日お会いしましたから、久しぶりではありませんね」  あなたもフィアナの策に乗って式典では随分と手際のよいことをしてくれたではないか、と微笑みながら嫌味を言っても、ジーノはあまり気にしていないのか悪びれる様子もなくアシェルの正面に座った。エリクが素早く紅茶と茶菓子を用意し、静かに退室していく。 「まだ怒ってるんだね。確かにアシェルには急な事だったと思うけど、そう悪い話ではないと私は思うよ」  この私室ひとつ見ただけでも、ルイがアシェルを充分に大切にしてくれていることがわかる。ロランヴィエル邸に来てますます自らの判断は間違っていなかったとジーノは確信を持ったようだが、そんなフィアナと同じような言葉で気分が変わるほどアシェルも単純ではない。 「そんなことを言って僕をますます不機嫌にさせるために、わざわざこんな時間に来たんですか?」  ニッコリ、とわざとらしく笑みを浮かべて見せれば、ジーノはまるで仕方のない子だと、聞き分けの無い幼子を見るように眉尻を下げる。

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