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第113話

「ロランヴィエル公、アシェルお兄さまをお願いしてよろしいかしら?」  せめて馬車に乗せるまでは、とお願いするフィアナに、アシェルは目を見開き、慌てて首を横に振った。 「公爵の手を借りなくても帰れる。軍務中なら尚更、早く軍に帰らないと――」 「問題ありません。王妃殿下、アシェル殿のことはお任せを。必ず屋敷までお送りします」  一人で大丈夫だと言い募るアシェルを遮って、ルイは胸に手を当てながら恭しく頭を垂れた。なぜか車止めから屋敷までに変更されており、アシェルは勢いよく振り返る。信じられないとばかりに目を見開くアシェルに、ルイはそれはそれは優しい笑みを見せた。 「まぁ、それなら私も安心ですわ。ではジーノお兄さま、アシェルお兄さま、また」  ルイが屋敷まで一緒だと知ってはしゃいだフィアナは、差し出されたラージェンの手をとりながらニコニコとご機嫌に扉の方へ向かった。そしてふと、思い出したように立ち止まり、振り返る。 「そういえば、アシェルお兄さまは性格的にあんな感じですけれど、ロランヴィエル公も随分と他人行儀なんですわね。色々お考えになることがあるのかもしれませんが、例え年下であろうとお兄さまは〝アシェル〟と呼んで怒るほど狭量ではございませんわ。だって、お兄さまは年下にとっても弱いんですもの」 「なッッ――」  確かに弱い。無理難題であっても結局は折れてしまうほどには弱い。嫌だ嫌だと言いつつもフィアナに強く出られずにルイと婚約しているのが良い証拠だろう。だからといって、なぜ妹はこうもアシェルの知られたくない情報をぽんぽんとルイに教えてしまうのか。

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