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第122話

 例え結婚したとしてもアシェル自身が公爵位を授かるわけではなく、既に位を退いたルイの父、リゼル・ブロウ・ロランヴィエルは〝リゼル閣下〟と呼ばれるため、ロランヴィエル公爵と呼ばれるのはルイ一人だけだ。ならばアシェルが公爵と呼ぼうがロランヴィエル公爵と呼ぼうが、誰と間違うことも無いのだから何も問題ないはず。そんな、頑なすぎていっそ滑稽な言い訳をつらつらと考えていれば、ルイは少し拗ねたような顔をしてアシェルの頤に指をかけた。 「どうでも良くはないです。ね? ルイと呼んでください」  この唇で、名前を呼んで。そう囁いてルイはアシェルの唇に己のそれを重ねた。 「んぅッ!?」  突然のことに思わず開いてしまった唇にスルリと舌が入り込んで、アシェルは大きく目を見開いて固まってしまう。今まで隣で寝ていようとも一切手を出してこなかったルイの暴挙に混乱し、とにかく必死にルイの肩を押しのけようとするが、相手はどれほど優雅な貴族に見えたとしても剣を振るう現役の武官だ。アシェルの筋肉などほとんどついていない腕で押しのけられるはずもなく、ただその唇に翻弄される。 「んんッ……、んぁ、ぁぅんんッ……」  フニフニと唇を愛撫され、舌を絡め、歯列を舐められる。息すらも奪わんとするかのようなそれに、アシェルの眦から涙が零れ落ちた。

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