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第125話

「はい、アシェル。やっぱりあなたから名を呼んでもらえるというのは特別ですね」  嬉しいと隠す気も無く笑うルイに、アシェルは呼吸を荒げたまま顔を背ける。その姿すらも可愛いとばかりにルイは顔中に口づけを降らせ、涙や唾液の跡を舐めとった。 「約束ですよ、アシェル。今度また〝公爵〟と呼んだら、その時はこうしてずっと唇を塞いでしまいますから」  サラリと恐ろしい条件を付けくわえて勝手に約束したルイは、ようやくアシェルに覆いかぶさっていた身体を起こした。ベルを鳴らしてエリクを呼ぶと、アシェルの簡単な支度を手伝うよう申し付け、未だ横たわっているアシェルの額に口づけを落とすと寝台を降りる。 「私も身支度をしてきます。終わったらすぐに御手伝いに来ますから、少しだけ待っていてくださいね」  誰が待つか、と胸の内で悪態をついているだろうアシェルに微笑むと、ルイは部屋を出た。小さく息をついて、閉じた扉を振り返る。 (これでしばらくは力も出せないはずですが……。念のため窓の鍵を二重に閉めて、刃物の類も視界に入らないように命じておかなければ)  あれこれと対策を考えながら、ルイは窓の外を忌々し気に睨みつけた。

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