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第130話

 本来であれば、返礼品は生家が用意するものである。だが、今のノーウォルトにそんな余裕などない。まして、このように高価なものなど――。 「返礼など必要ありませんよ」  受け取れない、と指輪を外そうとしたアシェルの手を止めて、ルイは指輪のつけられた薬指に口づける。 「これはあなたが私の婚約者だと告げる物です。誰もあなたに邪な感情を抱いてはいけない、あなたは私の伴侶だと牽制するためのもの。つまりは私の欲を満たす為のもので、返礼を目的としたものではありませんから」  だからどうか受け取って、その指に嵌めていてほしい。そう乞い願うように立ち上がり、アシェルの頬を包み込んで額を合わせた。コツン、と幼子にするおまじないのように付けられた額にボンヤリと霧がかった過去を思い出して、アシェルは懐かしむように瞼を閉じる。そんなアシェルにほんの少し苦笑するが、ルイは特に何を言うことはなかった。

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