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第135話

 流石に国王夫妻を待たせるわけにはいかないからと、彼らの招待状には少し遅めの時間を記載してある。つまり、今この場で挨拶をしていないのは一組だけだ。当然、ルイはそちらの方へと向かう。近づく彼らの姿に、アシェルは胸の内で小さくため息をついた。 「公爵様、本日はお招きいただきありがとうございます。公爵様と縁を結べることは我がノーウォルトにとってこの上ない喜びです」  真新しいクリーム色の衣装に身を包んだウィリアムが笑みを浮かべながら言う。隣にいたメリッサもまた、笑みを浮かべて優雅にドレスを摘まみ、礼をした。 (また二人そろって新調したのか)  もはやアシェルはノーウォルトの人間ではないというのに、ついついそんなことを考えて遠い目をしてしまう。ウィリアムも派手であるが、問題はメリッサだ。いくら身内の集まりとはいえ、今日やって来る最高位の女性は王妃であるフィアナだ。礼儀としてフィアナよりも派手派手しく着飾るのは避けるべきだろう。それに、彼女の頭がもう一つ乗っているのでは? と思えるくらい高く結い上げられた髪は何だろう。確かに織物産業が盛んな国の王妃が奇抜なドレスや髪結いをしており、それが何故かバーチェラの年若い夫人たちにも流行っていると聞いたが、それを公爵が主催する、それも国王夫妻も参加する茶会でしてくるとは予想外だ。なぜウィリアムも止めなかったのかと恨めしく思うが、ウィリアムがメリッサのすることに否を言えるような性格ではないと思い出し、アシェルは胸の内でため息をついた。そんなアシェルを宥めるように、ルイの大きな手が肩をさりげなく撫でる。

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