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第159話

「よかった」  優しく微笑む人は、陽だまりのようだと思った。こんな人が兄であったならとても幸せだろう、なんて。先程チラと見ただけのフィアナが少し羨ましい。そんなことを考えていれば、ブワリと正面から強い風が吹きつけた。この時期には珍しくないそれに常ならばすぐにフードを掴むのだが、今はアシェルから貰った焼き菓子を持っていて手を動かすのが遅れ、ハラリとフードが背に落ちた。 「ッッ――!!」  きっとアシェルには僅かであったとしてもすでに見えていただろう、その髪と瞳。それでも遮るものもなく晒されたことに心臓は大きく跳ね、焼き菓子が地に落ちるのも気づかずに慌ててフードを掴み、髪と瞳を隠した。 「……どうしたの? 大丈夫?」  突然のことに目を見開いたアシェルであったが、何かあったのかと顔を覗き込もうとする。そんなアシェルにルイは限界まで身を縮めて顔と髪を隠した。カタカタと、知らず身体が小刻みに震える。 「みないで……」  消え入るようなか細い声で訴える。嫌な言葉を聞きたくなくてフードを被り、こうして人の輪から外れた場所にいるのだ。独り静かに時間が過ぎるのを待っていたというのに、わざわざここに留まった少年にまで蔑んだ目で見られたくない。

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