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第163話

 人々の声はとても煩わしいだろう。人々の視線は無遠慮で腹立たしいだろう。だがそれを恐れて閉じこもっては勿体ないではないか。 「見せつけてやればいいよ。お前たちが蔑んだ悪魔は、こんなにも立派で素敵な紳士なのだと。そうすれば、すべてはあなたの手の中だよ」  優しい微笑みを浮かべてそう言い切るアシェルに、ルイはこれ以上ないほど目を見開いた。それはルイには思いつかないような考えで、しかもアシェルは何一つ疑うことなく確信を持っているようだった。  髪も瞳も、隠すことなく過ごせる世界。母が儚くなった瞬間に消えたと思った、誰かに愛される世界。幸せに、なれる世界。 「公爵に?」  真っ暗闇だった世界がキラキラと輝き、ルイの目にアシェルは女神のように見えた。アシェルの言う〝公爵〟になれたら、そうしたら二度と悪魔などと言われず、嗤われない世界に生きることができるのか。その確かな希望を瞳に宿したルイに、アシェルはひとつ頷いた。 「そう、素敵な公爵に。大きな力を持つ、とても偉い公爵に」  立派な公爵様に、と言った同じ口調で告げられたそれに、ピクリとルイの指が跳ねる。 「……力?」

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