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第164話

 幼いながらに、ルイはロランヴィエル公爵が持つ力がとても大きいことを知っていた。アシェルが言ったのはその力のことだろうとわかっていて、それでも違うと否定されることを望み短く問いかける。しかしルイの願いも虚しく、アシェルは笑みを崩すこともなく頷く。 「そうだよ。誰もが持てるわけじゃない、特別な力。それをあなたは持つことができる」  それはまるで貴族は特別だと言っているように思えて、クスクスとルイを嗤う選民意識の強い貴族たちを思い出す。着飾り、富をひけらかし、平民とは違うのだと下の者を見下して虫けらのように扱うのに、上の者には媚びへつらって白いものも黒と言われれば追従する。そんな、俗物の塊である貴族のような考え。 「……あなたは、その力が、欲しいの?」  諦めも悪く否定してくれることを願って問いかけるのに、そんな願いも虚しくアシェルは苦笑しながらも確かに頷いた。 「僕は三男だから、領地も爵位も何も継がないし、そもそも継ぐものがあったとしてもノーウォルトはロランヴィエル公爵家には遠く及ばないけれど。でも、そうだね。もしも得られるのなら、力は欲しかったかな。だって、貴族に生まれたんだから」  欲しかった。そう明確に告げられて、先程までキラキラと輝いていた世界が一気に暗く陰る。 「そう……です、か……」  きっと、アシェルはルイの心の内を知ることは無かっただろう。茶会の終わりにようやく揃って親の元へ戻って、またね、と手を振る。  所詮、貴族。  アシェルの後ろ姿を見送るルイの胸に広がったのは、静かな失望だった。

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