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第170話

「今日は甘いものの気分だったのですね。なら、これはいかがですか?」  ゆっくりと水を飲ませて口の中を空っぽにさせてから、ルイは一粒のチョコレートを差し出した。未だボロボロと涙を流し続ける瞳でジッとそのチョコレートを見つめたアシェルは、本能のままにそれを口にする。歯をたてた瞬間に中からトロリと甘い蜜が溢れ出た。 「美味しいでしょう?」  そっと涙を拭うように頬を撫でれば、アシェルは幼子のようにコクンと頷いた。 「はい、お母さま」  ルイの声は決して女性的ではなく、見た目もアシェルの母――ミシェルには似ても似つかない。だがアシェルはルイを見てハッキリと〝お母さま〟と言った。それに少し固まってしまったルイであったが、すぐに微笑みを浮かべる。 〝ロランヴィエル公、あなたにその覚悟があるかしら〟  かつて問いかけられたそれに再び胸の内で頷いて、ルイはそっとアシェルを抱き上げた。 「今日の夕食後のデザートはケーキだそうですよ。後で一緒に食べましょうね」  肯定も否定もせず、のんびりと話をしながらルイはアシェルの服を脱がせ、着替えさせる。ゆったりとしたそれに身を包んだ瞬間、おそらくは無意識にだろうアシェルはホッと息をついた。

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