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第171話

 ザァー、と窓の外で本格的に雨が降り始める。その光景を、音を遮るようにエリクがカーテンを閉ざした。音もなく退室した彼は、兄であるベリエルと共に扉の向こうで待機しているだろう。 「足が痛んだりはしていませんか?」  ゆっくりと撫でさすれば、その手の甲にポタリと雫が落ちた。顔を上げてアシェルを見れば、彼は再び大粒の涙を流している。 「……ぃ……」  クシャリと顔を歪めて、なのに大声で泣きわめくこともなくポツリと呟く。その言葉を聞き取ろうとルイが顔を近づけた時、アシェルは何かを耐えるように両手で頭を抱えた。 「こわぃ……。お母さま……、こわぃ……」  助けて、と震えながら縋るアシェルに、ルイは隣に腰かけると抱き寄せた。 「大丈夫、大丈夫ですよ。もう少ししたら、きっと楽になりますから」  ここでルイまで焦りを見せれば、アシェルはもっと恐れを抱く。だから、とルイは自分に何度も言い聞かせて、あえてゆっくりと言葉を紡ぎ、その肩や足を撫でさすった。

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