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第172話
「お母さま、許して……。もう、許して……」
ごめんなさい。もう無理なのです。
ボロボロと涙を零し頭を押さえながら何度も呟くアシェルに、ルイは何と声をかけて良いかわからない。
アシェルの目には今、母の姿があるのだろうか。そうなのだとしたら、彼の母はアシェルに何を言っているのだろう。アシェルの耳に、何が聞こえているのだろう。
答えがわからぬまま、ルイは早く時が経つことを願うことしかできない。
早く。早く……。
(ミシェル夫人。まだアシェルは渡せません。まだ……)
アシェルは絶対に――ッッ!
叫ぶような想いを内に押し込めて、ルイはアシェルを抱きしめ続けた。
ミシェルが、アシェルの額に口づけたことなど知る由もなく。
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