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第176話
「これ? これはいま貴族の間で流行っているペンダントよ。ここに爪をひっかけるとね、ほら、開いたでしょう?」
さほど力を籠めずに開いたペンダントに、アシェルも思わず視線を向ける。小さな肖像画や大切な人の髪などを収めるペンダントは昔から存在するが、どうやらこれは違うらしい。開いた内側には小さく輝くルビーが花の形のように埋め込まれていた。
「わぁ! かわいい~!」
キラキラと輝くもの、花のような可愛らしいものが子供は大好きだ。例にもれずフィアナもペンダントに夢中になった。
「これにね、願い事をするの」
「ねがいごと?」
コテンと首を傾げるフィアナと同じように、アシェルも内心で首を傾げる。そんな二人に母は微笑んで頷いた。
「ええ、そうよ。なんでも良いの。お願い事をして、こうして胸にかけていれば、いつかそのお願いが叶うのよ」
それはなんとも子供じみたおまじないだ。ミシェルとて世間をしる大人であるのだから、このペンダントにそのような神秘的な力など無いということはわかっているのだろう。それでも身につけているのは、流行りに乗りたいという欲と、願掛けみたいなものだろうか?
とはいえ、そんな風に子供らしからぬ冷めた感想を抱いたのはアシェルだけだった。
「ほんとう!? おねがいごと、かなうの!?」
幼いフィアナは母の言葉を信じて、ますます瞳を輝かせる。まぁ、フィアナはまだまだ幼いのだ。むしろこの歳でアシェルのように冷めた目で現実を見ていたら問題だろう。
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