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第178話

「お母さま?」 「これはアシェルの分。アシェルも子供だましだなんて言わないで、お願い事、してごらんなさいな」  もしかしたら叶うかもしれないわよ? なんて悪戯っ子のように微笑む母に、アシェルは頷くことも否定することもできなかった。  強請ったのはフィアナだったから、まさか自分も貰えるだなんて思っていなかった。特別欲しかったわけでもないけれど、それでも心はどこかポカポカと温かくなる。  何を願おうか。  それを考えるのも楽しい、とアシェルはペンダントを握りしめながら口元に笑みを浮かべる。そんな我が子達に微笑んでいた母は、ある日アシェルの胸元を見て言った。 「あら、アシェル。素敵なペンダントね。どこかのご令嬢からいただいたの?」  何もわからないはずなのに、その瞬間アシェルは破滅の足音を聞いた気がした。そして、それを幼いフィアナに気づかせたくなくて、アシェルは咄嗟にペンダントを隠し、二度と着けることは無くなった。

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