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第184話
気づいたら寝台に横たわっていたアシェルであったが、そこに運んだのがルイであれエリクであれ、そこに大きな違いはない。アシェルの事はどんな小さなことでもエリクが常に報告しているのだから。
「無理強いをする気はありませんが、聞かせていただけるのなら、もちろん知りたくはあります。……そのように言われるということは、話してくださる気はあるのでしょう?」
コトン、と用意されていた砂糖とミルクをアシェルの前に置く。
「僕はあなたの事を詳しくは知らないけど、それでも馬鹿には公爵も連隊長も務まらないことは知っている。きっと、あなたは勘付いただろうとは思っていた」
小さく息をついて、アシェルは自らの紅茶にたっぷりと砂糖とミルクを淹れる。随分と甘くなった紅茶をコクリと飲めば、同じように紅茶を飲んでいたルイはカチャリとカップを置いてアシェルに向き直った。
「ええ、気づきますよ。だってアシェルは、甘いものが好きではなかったでしょう?」
ピク、とアシェルの手が震え、紅茶が揺れる。それを見つめて深々とため息をつくと、零さないように紅茶をテーブルに戻した。
「そこまで知っていたのか。ロランヴィエルの諜報員は随分と優秀なようだ。なら、あなたはいつから知っていたんだろう。……駄目だ。もうわからない」
ロランヴィエルの諜報員はどこまで遡って調べたというのだろう。ルイは何を知っているというのだろう。知らずカタカタと震える手を、ルイが包み込む。優しく優雅な見た目に反して、大きく温かな手だ。
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