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第191話
「大きさを見るに、親離れしたばかりの子供でしょうか。近頃、頻繁にネコが紛れ込んでいるようだとベリエルが報告を受けていたようですが、この子ですかね?」
「頻繁であるなら、この子だろうな。随分と人馴れしていて、まったく怯えもしなければ威嚇もしない。かわいい子だ」
この可愛らしい姿に庇護欲でも掻き立てられるのか、使用人たちがあれこれと餌をやっていて、ベリエルも目こぼししていたらしい。おかげでまったく人間に警戒しない、むしろ可愛らしく強請ってみせるまでになったようだ。
「だが、悪いな。ここにはお前にやれるようなご飯は無いんだ。流石に砂糖がたっぷり使われた菓子をあげるわけにもいかないし」
ごめんね、とアシェルが呟けば、わかっているのか否か、にゃー、とネコは可愛らしく鳴いた。膝の上に降ろしても逃げるどころか、アシェルの手にじゃれつくようにして身をゴロゴロと転がしている。
「そんなに簡単にお腹を見せても良いのか? 少しは警戒しないと、騙されて酷い目にあうぞ、可愛いお姫様」
目を細め、柔らかな口調で言うアシェルはひどく優しい。その様子を静かに眺めていたルイは、小さくひとつ頷くと、近くで控えていたベリエルを呼んだ。
「はい、旦那様」
音もなく現れたベリエルに、アシェルはネコと戯れるのを止めて視線を向ける。そんなアシェルの手から優しく子猫を離したルイは、そのままネコをベリエルに渡した。
「この子をお風呂に入れて綺麗にしてから、何か食べものを」
その言葉が何を示すのか、主の言葉にされなかった考えのすべてを理解して、ベリエルは礼をすると踵を返す。その後ろ姿をキョトンとしながらアシェルが見つめていた時、入れ替わるようにしてエリクがやって来た。
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