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第201話
「ねぇ、アシェル。今のお母さまは大丈夫だわ。でも、次がいつかなんて、もうわからないの。あなたはとても敏い子だから、お母さまが何を言っているのかわかるわよね? 少し、お話して良いかしら」
フィアナに優しい眼差しを向けながら言う母に、アシェルは否とも、聞きたくないとも言えなかった。母が言う通り、アシェルは母の身に何が起こっているかを理解していたし、母の言うことが偽りや大げさなものではないことも、知っていたから。
「はい、お母さま」
アシェルの応えに母は微笑んで、ポンポンと隣に座るよう促した。フィアナとは反対側のそこへゆっくりと腰かければ、母は優しくアシェルの髪を撫でる。
「アシェル、あなたにも悪いことをしていると思っているわ。フィアナのこと、たくさん任せてしまっているわね」
日常でも社交界でも、アシェルはフィアナにつきっきりだ。母に甘えられない反動か、近頃のフィアナは殊更アシェルに甘えている。だがそれを煩わしいなどとは思わなかった。
「いいえ、お母さま。僕はフィアナの兄です。特別負担を強いられたなどとは思っていません」
可愛い、可哀想なフィアナ。周りの子供たちは母に甘え、社交界でも母に付き添われて参加するというのに。フィアナが頼れるのは社交界が苦手で距離を取り続けていた未熟な兄しかいないなんて。
「アシェル、慈しみと強さを上手く教えることのできなかったお母さまを、どうか許してね」
自分の子は皆かわいいからと、甘やかしてしまった。そう、母は瞼を伏せる。
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