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第205話
「呪いなどと。奥様は分け隔てなくお子様方を愛しておられたではありませんか」
ヒュトゥスレイに身を蝕まれながらも、ミシェルは我が子を愛し続け、時間があれば子供たちの為に使った。我が子を見つめる、あの優しい眼差しに偽りなどない。セルジュは心からそう告げたが、ハンスはおかしいとばかりにクツクツと笑った。
「そうだな。彼女は子供たちを愛していた。愛していたからこそ、呪いをかけたんだよ」
しかしその愛情が平等であるとは、決して言えない。
「あの時、一番幼かったのはフィアナだった。幼く、小さく、庇護を必要とする存在。おそらくミシェルは本能で一番幼い子供を守らなければならないと思ったのだろうな。だからこそ、絶対にフィアナを守ってくれるアシェルに願った。それが呪いになるとも気づかずに」
小さな小さなフィアナは、当然守られるべき存在だった。だが願われたアシェルもまた幼かったのだと、必死になるあまりミシェルは気づかなかったのだろう。
「ウィリアムは矜持が高く、他者に良い顔をしたいだけの小心者で、ジーノは表面上やさしく振る舞うが必要とあれば親兄妹であろうと容易く切り捨てる非情さを持った、もっとも貴族らしい性格をしている。どちらもあの時すでに大人とよべる青年であったのに、ミシェルはフィアナを託すことはできないと判断した。それを責める気は無い。儂もまた、同じようにするだろうからな。だが……アシェルには申し訳ないことをした」
フィアナのことを考えれば、アシェルが一番の頼みだった。アシェルはフィアナを可愛がり、過保護なほどに面倒をみて慈しんでくれる。そしてジーノのような非情を妹に向けることなど、絶対にできない性格をしていた。それに父母揃って甘えてしまったのだ。
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