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第207話

「旦那様、そんなに嘆かれてはお身体に障りますぞ。きっと、坊ちゃまは大丈夫でございます。ロランヴィエル公爵は随分と坊ちゃまのことを大切にしてくださっておりますし、公爵が根回しされたのか、リゼル閣下も坊ちゃまのことを歓迎し、可愛がってくださっておられる様子。坊ちゃまは、これ以上ないほどに大切にされておりましょう」  これまでは、確かに兄妹のための人生だったのかもしれない。だが今のアシェルは、自分自身のための人生を歩んでいるはずだ。アシェルを溺愛する人々に、大切にされて。  ――たとえそれが僅かの時であったとしても、それはアシェルにとって救いとなる。 「セルジュ、儂の代わりにアシェルを頼むぞ。せめてあの子が悲しむことのないよう、見守ってやってほしい。必要とあれば連れ戻してやってくれ。……もっとも、アシェルにとってはこの屋敷よりもロランヴィエル邸の方が、心休まるのかもしれんがな」  それもまた、儂の罪だ。  小さく呟いたハンスは、疲れたように息をついた。これ以上はハンスの身体に障ると判断して、セルジュは手早く夜着を着せた。 「お疲れでございましょう。坊ちゃまのことはこのセルジュにお任せになって、どうぞお休みください」  ハンスが眠ったら、また医者を呼んだ方が良いか。そう頭の中で予定をたてて、セルジュはハンスが眠りやすいよう寝台を整える。小さく息をついた主に、その時が近づいているのはアシェルだけではないことを理解して、セルジュは一礼した。

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