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第218話
ルイの婚約者としてロランヴィエルの屋敷に住まうようになってからさほど長い時は経っていないはずであるのに、久方ぶりに訪れたノーウォルトの屋敷は随分と荒れていた。天候など同じであるはずなのに、ノーウォルトの屋敷の上だけ空がどんよりと曇っているようにさえ見える。
ルイの手によってゆっくりと車椅子に乗せられたアシェルは、フィアナとルイに挟まれるようにして屋敷の中へと入った。正面でセルジュと、メリッサの侍女であろう女が二人待っており、アシェルたちの姿を見て深々と礼をする。
「じぃ、城に報せが来たと聞きましたわ。お父さまは……」
この場に父の信頼厚きセルジュがいる事実に、フィアナとアシェルは嫌な予感を覚える。そしてその予感を肯定するかのように、セルジュは何かを耐えるよう瞼を閉じ、顔を上げた。
「旦那様は急に発作を起こされ、城に報せを走らせてすぐにウィリアム様とメリッサ様に見守られながら息を引き取られました。医者の到着も間に合わなかったほどに、急のことでございました」
やはり、とアシェルは込み上げる何かを耐えるように瞼を閉じ、眉間に皺を寄せた。フィアナもまた激情を耐えているのであろう、ギュッと扇を握りしめている音が聞こえてくる。
「……じぃ、お父さまに会えるだろうか?」
涙が溢れて零れ落ちないようゆっくりと瞼を開き、声よ震えてくれるなと願いながらセルジュを見た。彼はわかっていると深く頷き、どうぞ、と奥へ促す。
フィアナと共に父の部屋へと入る。寝台の側にウィリアムとメリッサ、そしてジーノが立っていた。すすり泣く声はおそらくメリッサのものだろう。
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