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第220話
「坊ちゃまがお屋敷を出てロランヴィエル公爵邸でお過ごしになる際、旦那様のご命令で坊ちゃまの荷物から抜き取らせていただき、今日まで隠してまいりました」
仕事と、田舎の屋敷。それらをアシェルに掴ませないために寝たきりのハンスが下した苦肉の策。せめて、ロランヴィエルの元でゆっくりと療養できるように。
「しかし旦那様が逝去された今、遺品はすべてお子様方に分配されます。ですが、こちらがアシェル坊ちゃまを含め、お子様方のどなたに渡ることも良いとは言えないでしょう。とはいえ、勝手に廃棄することも憚られます。ですので、アシェル坊ちゃまの御伴侶になられるロランヴィエル公爵様にお持ちいただきたいと、亡き旦那様よりの御遺命にございます。このこと、どうかアシェル坊ちゃまにも内密にしていただきますよう、お願い申し上げます」
深く頭を垂れるセルジュに頷き、ルイはエリクを呼んでその包みを渡すと、隠すように命じた。忠実に命をこなすエリクの後ろ姿を視界におさめながら、ルイは部屋の中から聞こえる泣き声に耳をすませる。
この、泣きながら父を呼ぶ声はフィアナのものだ。同じようにメリッサの声も聞こえる。
男の声は、ルイの耳には聞こえなかった。ならばアシェルは、今も家族としてではなく〝兄〟として悲しみに耐えているのだろうか。
瞼を閉じ、中の声に耳をすませてどれほど経っただろう。離れた場所で待機していたセルジュがルイを促して中に入る。彼は何かを抑え込むように一度大きく深呼吸して、主人の愛し子達を見た。
「皆さま、準備が整いましたので旦那様のお仕度をさせていただきたく」
誰にとっても名残惜しく離れがたいであろうが、ずっとこのままというわけにもいかない。セルジュの言葉に皆が涙ながらに父から離れ、何度も振り返りながら部屋を出た。ルイもアシェルの側に行き、そっと車椅子を押す。
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