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第221話
本来であれば、このあと子供たちが集まって遺産の分配などを話し合うのだろうが、残念ながら浪費が激しく衰退の一途をたどっているノーウォルトに分けるほどの遺産はない。父が寝たきり状態になった時に国王が取り上げない限り残っている侯爵位やその領地、屋敷は長男であるウィリアムが、同じくハンスが与えられていた伯爵位とその領地は次男であるジーノが受け継いだため、ハンス自身の死亡届や諸々の書類を整理し、葬儀が終わってしばらくした後に、正式に国王の前で爵位を引き継ぐ簡易的な式をするだけだ。何も受け取るものが無いアシェルやフィアナがやるべきことは屋敷や城に戻って葬儀に備えるくらいで、葬儀の準備もまた、ウィリアムが取り仕切るので任せていればそれで良い。家を継ぐ者の役目であるのだから。
「お兄さま、私はラージェンに報告してこれからの公務を調整するために城へ戻るので、ここで失礼いたしますわ。ロランヴィエル公、お兄さまのこと、よろしくお願いいたしますわね」
目元を真っ赤にしながらフィアナはアシェルを心配そうに見ているが、彼女は王妃だ。父との別れに参加するためにも、早急にやらなければならないことが沢山ある。
お任せを、と頷いたルイに礼を言って、フィアナは足早に自らの馬車へ乗り込んだ。馬車が遠ざかっていくのを、アシェルはどこかボンヤリとした頭で見送る。
「我々も帰りましょう」
ルイの言葉に小さく頷いたアシェルを抱き上げて、共に馬車へ乗り込む。常より口数の多いアシェルではないが、今は一段と無口でルイに肩を撫でられるがままになっている。
屋敷に着いて車椅子を使うことなく、ルイはアシェルを抱き上げたまま私室へと向かった。
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