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第222話
「とりあえず、今日はもう何もないでしょうから着替えましょうか。ずっとこのままでは寛げないでしょうし」
柔らかなソファにアシェルを降ろしたルイは、彼の前に膝をつくと真っ黒なシャツのボタンを外していった。
「ルイ……」
ずっと何も言わずされるがままだったアシェルが小さく呼んだ名に、柔らかな衣装を着せて袖口のレースを整えていたルイは顔を上げる。その赤い瞳を、アシェルは真っ直ぐに見つめた。
「……〝あのチョコレート〟を、くれないか?」
あの、噛んだら中からトロリと甘い蜜が溢れてくる甘いチョコレート。それを今この時に求めるアシェルに、気づかれていたのかとルイは苦笑しつつ頷いた。
「すぐにご用意しましょう」
アシェルの身支度を整えながら部屋の隅に控えていたエリクに目配せをする。それに小さく首肯したエリクはすぐにチョコレートとホットミルクを用意して、丁度アシェルの身支度が整った瞬間に戻ってきた。音もたてずテーブルにそれらを用意してエリクは下がり、アシェルは一粒だけ乗せられたチョコレートを手に取る。それを口に含んで歯をたてれば、安心する甘さが口内に広がった。
「ありがとう」
力なく微笑むアシェルの頬を撫でる。絨毯に消されるはずの足音を感じてルイが下に視線を向ければ、そこには柔らかな毛並みの尻尾をユラユラと揺らしたエルピスがお行儀よく足元に座っていた。良い子だ、と小さな頭を撫でて抱き上げる。
「私も着替えて諸々を片付けてきます。何かあれば遠慮なく声をかけてくださいね」
ルイが傍にいれば、アシェルは素直に泣くことができないだろう。どうかエルピスがその心を温めてくれるようにと願って、ルイはアシェルの腕にエルピスを抱かせると立ち上がり、エリクと共に部屋を出た。
「先程のものは書斎の机に」
エリクの報告に頷いて、ルイは閉じた扉を振り返る。
「チョコレートは食べられたから心配はないと思うが、この状況だ。頼むぞ」
室内の細々したものも、窓の鍵もすべて確認してあるが、それでも心配は尽きない。力強く頷いたエリクに見送られながら、ルイは足早に書斎へと向かった。
書斎で待ち構えていたベリエルの手を借りながら手早く着替え、彼が下がるのを視線で見送ってから椅子に座った。机の上に置かれた四角い布の包みを手に取って、ルイは瞼を閉じると深く深呼吸し、覚悟を決めて目を開くと包みを剥いだ。想像通り、お伽噺に出てきそうな小さく分厚い冊子が見えて、ほんの少し目を細める。
〝困った時に見るように〟
パッと見ただけではわからないよう柄に紛れて、しかしちゃんと見ればわかるようにそう刻まれた表紙をめくる。セルジュが言ったように、そこには日記のようで日記ではない文が書き込まれていた。
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